本書の概要と掲載図表例
下記は本書の概要とサンプル図表を示したものであり、本書の主張は上記の本文をご覧下さい。
1. 気温上昇
都市化と地球温暖化の気温上昇の違い、陸域の平均気温上昇と陸+海の平均気温上昇の違いを紹介しました。
図-1.3は関東5地点について、明治から現在に至る年平均気温の推移と近似直線を示しました。一番上のグラフは東京で気温上昇は約3.5℃、世界の平均気温より遥かに高い気温上昇を示しています。東京の高い気温上昇は都市化の影響(ヒートアイランド現象)に依るものです。
図-1.5は、気象庁が報告している都市化の影響が少ない網走など国内15か所の平均気温の上昇を、東京と比較したものです。1900年を基準に示しています。両者の差が概ね都市化の影響と見做せると思います。なお、都市化の影響が少ない地点のグラフでも、過去120年間に約1.4℃の気温上昇が認められるのは、陸域の気温であることが大きいと考えます。
図-1.8には、Berkeley Earthが公開しているデータを用い、世界の陸域と陸+海の平均温度の変化を示しました。一般に言われる世界の平均気温は、陸域の気温と海面水温の平均です。陸域気温よりも海面水温の上昇の方が小さいため、グラフに示す差が生じます。120区間(10年間)移動平均を併記しています。過去170年間の変化は、単調に上昇している訳でないことが分かります。
2100年に、どのくらい気温が上昇するか関心事でしょう。図-1.13に、1980年~2019年のトレンドで気温上昇が続いた場合の2100年の値を示しました。赤線で示した陸域の平均気温は、2020年現在よりも2.2℃くらい高くなることになります。
2.温室効果ガス(GHG)排出量
GHG排出量の多い国々のデータ、高所得国や低所得国など、豊かさとGHG排出量の関係などを紹介しました。
図-2.2に、GHG排出量で世界上位20か国を示しました。世界のGHG排出量の3/4を占めています。
人口が多い大国は責任も大きいのですが、GHG排出量が多くなるのは当たり前です。人口1人当たりのGHG排出量で評価すべきです。図2-5には、上位20か国について、1990年以降の1人当たりGHG排出量の推移を示しました。中国や韓国が高い増加を示しています。韓国は1997年に始まるアジア通貨危機によりIMFの管理国になり、京都議定書ではGHGの削減義務を負いませんでした。削減義務が無ければ増加する証左でしょう。
図-2.6に、世界各国の1人当たりのGDPとGHG排出量を散布図を示しました。一般に、豊かになれば1人当たりのGHG排出量が増加します。誰もが豊かになる権利があるのですから、各国のGHG削減目標は、1人当たりのGHGを等しくすることを基本にすべきと考えます。
図-2.7には、世界銀行の所得分類に従う国家分類と、1人当たりのGHG排出量の推移を示しました。豊かになると、1人当たりのGHG排出量が増加することが明瞭です。先進国である高所得国、OECD諸国、EU-28ヵ国は、GHG排出量が低下しています。一方、高中所得国はGHG排出量の増加が顕著です。
3.GHG排出削減シナリオ
IPCCの5次評価報告書にある4種のRCPシナリオの2100年の放射強制力、GHG排出量、世界平均地上気温上昇、平均海面水位上昇などを紹介しました。
図-3.1に、4種のRCPシナリオ(RCP2.6, RCP4.5, RCP6.0, RCP8.5)の2000~2100年のGHG排出経路を示しました。RCPの後ろに付いている2.6などの数値は、W/m2の単位で放射強制力を表すものです。放射強制力とは、地球に出入りするエネルギーが地球の気候に対して持つ放射の大きさを示し、宇宙から地球への放射により地球が持つエネルギーを増やす(温暖化させる)外部因子が正の放射強制力です。
図-3.1 2000~2100年のGHG排出経路:5次評価報告書の全てのシナリオ
図-3.2は、各RCPシナリオで想定されている放射強制力の長期変化を示しています。
表-3.2は、各RCPシナリオについて、2050年と2100年の大気中のGHG濃度、世界のGHG排出量をグラフから読み取り表記したものです。
4. 世界のGHG排出量はいくらにすべきか
世界が温暖化防止に精一杯取り組んだら、中長期の温暖化はどの程度抑制できるかを考えてみました。
GHGを大幅に削減する場合、削減率ではなく、各国の1人当たりのGHG排出量を等しい値まで削減することを基本とすべきと考えています。図-4.2の右側のグラフは、各RCPシナリオの2100年の世界のGHG排出量の1人当りの値を示しました。左側のグラフは、豊かな国や貧しい国などの2012年の1人当たりのGHG排出実績です。両者を比較し、どのRCPシナリオなら実行できそうかを考えるためのものです。
図-4.4は、上記の主要20か国の2030年の自主削減目標を、1人当たりのGHG排出量に換算したものです。2012年に1人当りGHG排出量が多い国々は、2030年の目標も相変わらず高い値です。中国は推定を交えた値ですが、非常に高い排出量です。
2100年のGHG排出削減目標として、シナリオRCP2.5は、かなり頑張っても実行が難しい。一方、RCP8.5はGHG排出量が過大です。常識的に考えると、実行できるのはシナリオRCP4.5かRCP6.0になります。図-4.7は、RCP4.5とRCP6.0について、主要20か国に関し、2012年実績を基準に2100年のGHG排出削減率を示しました。
5. GHG排出ゼロとは何か
5章以降では、温室効果ガス80%削減やゼロについて記載しました。異常気象の恒常化などで、それが必要になる事態に対するものです。5章では、化石燃料の無い世界や脱炭素エネルギーについて記載しました。
図-5.1は、2010年の世界のGHG排出量推定内訳です。化石燃料と工業プロセスから排出されるCO2は、GHG全体の65%に過ぎません。GHGゼロの困難さが分かると思います。
表-5.1は、世界のGHG排出量のうち、非CO2で排出量が多いメタンCH4と過酸化窒素N2Oの排出源です。農業や廃棄物分野の排出が多く、削減の難しさが想像できると思います。
化石燃料の生産・消費を止める影響を考えるため、表-5.2には、化石エネルギー産出国のエネルギー輸出額とGDPに占める割合を示しました。化石燃料の消費が無くなると、経済破綻するエネルギー産出国が出ることでしょう。
しかし、下図は世界エネルギー機関(IEA)が2019年11月に発表した世界の石油需要見通しで、石油需要は2030年以降横ばいになり、2040年まで需要減少は訪れないと予測しています。
化石燃料の消費を止めることは、エネルギー輸入国にも大きな影響を及ぼすでしょう。表-5.3は、化石燃料輸入トップ5か国を示します。日本は化石燃料の輸入大国で、化石燃料の使用が無くなると大きな影響が及ぶでしょう。
6. CO2回収貯留(CCS)
CO2回収貯留(CCS)について、問題点やコスト、これまでの実績を紹介し、なぜ、今CCSに関心が持たれているのかを記載しました。
CCSは火力発電のボイラ排ガスなどからCO2を分離回収し、地下や海底下1,000m以上の帯水層などに貯留する技術です。IEAは2017年のレポートで、2060年時点でCCSにより年間49億トンのCO2削減を担うことが期待されていると記載しています。これは2010年の世界のGHG排出量の約10%、CO2排出量の15%に相当します。表-6.1に、日本のGHG排出の10%のCO2がどれほど膨大な量か、各種の量との比較を示しました。大量のCO2を地下1,000m以深に長期に貯留続けることは、あまりまともな考えとは思われません。
図-6.1には、科学技術論文のデータベースとして広く用いられているScienceDirectを用い、CCSの論文発表件数を調べ、その推移を示しました。2010年頃から急に関心が高まったことが分かります。しかし、2010年頃に実用化の見通しが得られたということではない様に思います。
7. 高比率の太陽光発電シミュレーション
日本は良好な風力立地が乏しいため、再生可能エネルギーの比率を高めようとすると太陽光発電の比率が高くなります。太陽光発電に大幅に依存した場合に問題になる発電電力量の変動について、筆者が行った毎時変動シミュレーションを紹介し、問題点を定量的に示しました。
気象庁は全国41箇所の地点で、1時間ごとの日射量(全天日射量)の測定データを公表しています。2018年の1年間のデータを用い、日本の総電力量の60%を太陽光発電が占める場合を想定し、1時間ごとの発電電力量の変動を試算しました。太陽光発電の出力が、全天日射量に比例するという近似に依る試算です。詳しくは、本文を参照下さい。
図-7.4はシミュレーション結果の1例で、2018年の10日間について、日本全体の発電電力量と電力需要の1時間ごとの変動を示したものです。
図-7.8には、シミュレーション結果の各種月間電力量を示しました。太陽光発電の発電電力量には季節変動があり、3月~8月が高い発電量です。そのため、昼夜の発電変動に対する電力貯蔵に加え、季節的な電力貯蔵が必要になります。
このシミュレーションでは、太陽光発電の昼夜の発電変動に対応した小容量電力貯蔵と、発電量の季節変動に対応した大容量電力貯蔵を設けたシミュレーションを行いました。図-4.11は小電力貯蔵設備による7月の10日間の電力貯蔵量の変動を示しています。図-4.12は大電力貯蔵設備による1年間の電力貯蔵量の変動です。
8. ドイツのGHG削減長期シナリオ
ドイツは2050年までに温室効果ガスを80%および95%削減する長期シナリオを作成しています。ドイツの環境研究NPOのÖko-Institutと、ドイツを代表する研究機関Fraunhoferによる下記レポートの一部要点を紹介しました。
Climate Protection Scenario 2050, Summary of second final report (2016)
下図は、GHG80%削減シナリオ(CS 80)と、GHG95%削減シナリオ(CS 95)で想定されている2050年の電源構成です。その他、シナリオ概要は上記筆者のPDFを参照して下さい。
9. ドイツのシナリオで日本に役立つ事項
ドイツと日本ではエネルギー事情が異なるため、ドイツの長期シナリオを真似るわけにはいきません。ドイツの長期シナリオについて、日本の長期シナリオを考える上で参考になる要点を示しました。
10. 日本のGHG削減長期戦略
京都議定書以後、ラクイナ・サミツトでの温室効果ガス80%削減の合意やパリ協定に関し、日本で検討されてきた温暖化防止の長期計画について紹介した上で、温室効果ガス削減の長期シナリオを作成する上で考慮すべき要点を示しました。
11. EUと日本のGHG実質ゼロ
2020年9月に選出された菅首相は、翌月の所信表明演説で「2050年にGHG排出実質ゼロを目指す」方針を表明しました。GHGゼロを表明している国は多数ありますが、その実行について真面目に考えているのはEUくらいだろうと考え、EUのGHG排出削減について調べました。
図-11.1は、EU27ヵ国に、英国、ノルウェー、スイス、トルコ、日本を加え、2018年の人口1人当りのGHG排出量を示しました。
上図で国名の後ろに*印を付けた国は、2018年の1人当りの名目GDPが3万USドル以下の国です。経済水準が低いためにGHG排出量が低い国を比較しても意味が無いため除き、図-11.4には、1人当りGHG排出量の内訳を示しました。
同図のマイナス側にあるのは、森林吸収など土地利用に係わるLULUCFで、GHG吸収である国です。
各国のGHG排出量については、本文にコメントしました。GHG実質ゼロに最も近いのはスウェーデンです。スウェーデンが環境問題に熱心であることは否定しませんが、GHG実質ゼロに近いのは、人口密度が極めて低いためです。その理由は本文をご覧下さい。図-11.10に各国の人口密度を示しました。スカンジナビアのノルウェーやフィンランドも人口密度が低いため、GHG実質ゼロを目指せば達成可能と思われます。
1990年から2018年までのGHG排出量の推移により、EU諸国を4グループに分類していみました。図-11.15は、その間、ほぼ一貫してGHG排出量が減少している国です。
図-11.16は、逆に1990年に比べて2018年のGHG排出量が増加した国です。
図-11..17は何れも旧ソ連圏の国で、省エネが遅れていたため、1990年代前半に急速にGHG排出量の削減が進みましたが、その後は顕著なGHG削減がなかった国です。
図-11.18はその他の国々で、概して、顕著なGHG削減が無かった国で、日本もこのグループに含まれています。
以上のように、EU加盟国でも、GHG実質ゼロに向けて真剣に取り組んでいるのは一部であることが分かります。GHG実質ゼロに熱心なのは、概してGHG削減が比較的容易な国々です。
おわりに
GHG排出実質ゼロや化石燃料をほとんど使用しない世界が、どの様なものなのかを明らかにし、世界がそこに移行するシナリオを示すことが重要と考えます。
また、確かに温暖化は進行していますが、異常気象のような深刻な温暖化被害の発生は、不確実であると思います。気候モデルによる検討のため、温暖化に懐疑的メンバーも加え、世界中のスーパーコンピュータを総動員するくらいのことが必要と考えます。
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