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中国の第15次五カ年計画(2026~2030年)で
CO2排出量は再び増加する


田中 雄三
掲載: 2026年7月27日




本稿は、先に筆者が報告した下記レポートの日本語版です。
According to China's 15th Five-Year Plan (2026–2030), CO2 emissions will rise again

はじめに
世界最大のCO2排出量で増加を続ける中国は、2025年に排出量が減少に転じるのでないかと注目されました。中国国家統計局が2026年2月末に報告したコミュニケによれば、2025年のGDP当りCO2排出量は前年比で5%減少し、GDP成長率は5%でした。誤差範囲と言うべきですが、計算上CO2排出量は前年比で0.25%減少したことになります。


今後5年間の国家運営・経済社会開発の指針を示す第15次五カ年計画(2026~2030年)が、本年3月の全国人民代表大会で承認されました。本稿は、同計画に従うと今後5年間の中国のCO2排出量がどの様に変わるかを示したものです。

中国はGDP当たりCO2排出量の前年比削減率を毎年報告していますが、CO2排出量の算出基準を過去に遡って変更したと、CarbonBriefに掲載されたレポートが指摘しています。本稿は、変更された新基準に準じたCO2排出量により解析したものです。

CarbonBriefでの指摘
中国は温室効果ガス削減に関する「国が決定する貢献(NDC)」で、GDP当たりCO2排出量(以下CO2/GDP)の削減目標を表明しています。五か年計画にも同項目の削減目標が示されています。
CarbonBriefに掲載されたCREAアナリストの下記レポートは、2020~2025年の五か年計画のCO2/GDP削減が、目標の18%に大幅に及ばなかったため、算出基準を変更することで17.7%削減の報告をしたと非難しています。そのような行為が認められないのは当然です。
Analysis: China’s new carbon metric leaves Germany-sized gap in its emissions

従来のCO2排出量の算出基準は、石炭、石油、天然ガスの各々の総消費量と、各々のCO2排出係数により算出されていたと記載されています。

化石燃料は、燃焼利用のほかに、プラスチック等を製造する原料として利用されるものがあります。その場合、製品が廃棄焼却されるまでは、使用された化石燃料の一部に含有される炭素は製品中に留まり、CO2は排出されません。その他、セメントや石灰製造などでは、石灰石由来のCO2排出もあります。

気候変動枠組条約(UNFCCC)に提出する温室効果ガス(GHG)排出量の積算には、膨大なデータと労力・時間を要します。2021年の中国のGHG排出量が報告されたのは2024年12月です。

従来のCO2算出基準が用いられていたのは、CO2削減量を早期に報告するためと思われます。

新たなCO2排出量算出基準の詳細は報告されていませんが、実態に即したCO2排出量を概算するものと思われます。

削減目標達成のために算出基準を変更することは論外で、中国を弁護する気はありませんが、実態に近いCO2排出量を算出する簡易な方法があるなら、変更することには合理性があります。

CO2排出量の簡略化算出の試み
筆者は、2026年1月に下記レポートを自分のウェブページに公開しています。
China's 2030 CO2 reduction target difficult to achieve, according to a simplified simulation

同レポートで、実態に即したCO2排出量を算出する簡略化方法を試み、中国が報告しているCO2排出量とほぼ合致していることを確認した上で、2015~2024年までのCO2排出実績の算出と、2030年までの推定に用いています。CO2算出方法の詳細は、同レポートを参照ください。

中国はNDCで、2030年までに基準年の2005年比でCO2/GDPを65%削減すると表明しており、同レポートは、目標達成のためには2025年以降、再生可能エネルギーの導入や、石炭から天然ガスへの転換をどれだけ拡大する必要があるかを検討したものです。

なお本稿は、上記レポートの続編で2026年3月に承認された15次五か年計画の目標に従うと、2026~2030年のCO2排出量がどうなるかを示したものです。

中国国家統計局が、毎年preliminary estimatesと断り付きで報告しているCO2/GDPの削減率を、筆者は単に概算方法で算出した値と考えていました。Carbon intensityと記載されていれば調べたかもしれませんが、算出方法に関心を持ったことはありません。

CarbonBriefのレポートを読み、図らずも筆者は、中国が変更したCO2/GDPの算出基準を先取りしたことに気付きました。

本稿は、新規の算出基準を用いると、2030年までのCO2排出量どの様になるるかを示すものです。

GHGとCO2の排出実績
今後の中国のCO2排出量を論じる前に、2025年までの温室効果ガス(GHG)排出量の実績を紹介することから始めます。

中国はほぼ隔年で2021年まで、GHG排出量の積算値をUNFCCCに報告しています。

中国のGHGやCO2の排出概要を示すため、図-1、図-2に2021年の内訳を示しました。 ”First Biennial Transparency Report on Climate Change (December 2024)” に記載されたデータです。

図-1のGHGはCO2、CH4、N2O、F-ガスの内訳を示しており、排出量はCO2相当量(CO2eq)の比率で、土地利用・土地利用変化及び林業分野 (LULUCF)の排出量を含まない値です。CO2排出量はGHG排出量の81%を占めています。

LULUCF分野の排出量はマイナス1,315 MtCO2eq(吸収量)で、ほとんどがCO2によるものです。



図-2にはCO2排出量を少し詳しい分類で示しました。同図の排出源名の頭についている1.A.1などは、UNFCCCのGHG排出量報告で定められている番号で、1.A.1~1.A.4は1.A 燃料の燃焼、2.A~2.Cは2.工業プロセス及び製品の使用分野(IPPU)の排出量です。

燃料燃焼CO2が、CO2排出量全体の87%を占めています。



図-3は、図-2に示したIPPU分野について、産業部門の代わりに、排出量の多い具体的な製品プロセスを示したものです。セメント製造プロセスがCO2総排出量の6.9%、石灰製造の1.6%、石油化学の1.4%、アンモニア製造の1.2%などが排出量の多いプロセスです。



化石燃料をエネルギーとして使用して排出されるCO2は、燃料燃焼CO2に分類されています。一方、セメントや石灰の生産プロセスのように石灰石由来のCO2や、プラスチック製造などの原料として使用される化石燃料から排出されるCO2は、IPPU分野のCO2に分類されています。

図-4に、中国がUNFCCCに報告しているGHGとCO2の排出量の推移を、LULUCF考慮の有無両者について示しました。なお、2005年は中国のGHG排出削減の基準年です。2005年に対する2021年の排出量の増加率は、LULUCFの有無に係わらずGHGは約1.7倍、CO2は約1.8倍です。



図-4で2010年代半ばに、排出量の増加率が低い期間が見られます。これは石炭使用による深刻な大気汚染の対策として、中小設備を中心に石炭利用を規制したことで、CO2排出量の増加が抑制されたものです。

筆者のCO2算出値との比較
図-5に2025年までのCO2排出実績の筆者による算出値と、図-4に示した中国の報告値の比較を示しました。化石燃料のエネルギー消費量、非化石燃料発電量、IPPU分野の製品生産量などを用いて算出したもので、詳しくは前記のレポートを参照ください。

CO2の集計範囲は図-3に対応するもので、僅かですが廃棄物分野を含み、LULUCFを含まないCO2排出量です。中国が報告した積算値は2021年までの4点しかありませんが、それとは良く合っていると考えます。



エネルギー消費量
図-6はCO2排出量算出に用いたデータの一部で、エネルギー消費量です。



中国の総エネルギー消費量は、国際エネルギー機関(IEA)の総エネルギー供給量(TES)に相当するデータです。中国の総エネルギー消費量は、石炭、石油、天然ガス、一次電力とその他エネルギー、の4分類で報告されています。

エネルギー単位には、一般に標準石炭換算トン(tce)が用いられています。1 tce = 7 Gcalで換算されるエネルギー単位です。

「一次電力とその他エネルギー」は化石燃料以外のエネルギーです。その内の「一次電力」は、火力発電を除いた原子力、水力、風力、太陽光発電による電力量を、石炭火力で発電した場合の投入エネルギーで表したものです。

なお、「一次電力とその他エネルギー」の内の「その他エネルギー」は、電力以外での再生可能エネルギー消費量のようですが、本稿では、「一次電力とその他エネルギー」の報告値から、一次電力量の計算値を差し引いた残りとしており、総エネルギー消費量の2%程度です。

総エネルギー消費量に占める石炭消費量の比率は一貫して低減していますが、2025年でも51%で、化石燃料消費量の66%を占めています。

2020年以降では、水力や原子力発電の増加率に比べ、風力や太陽光発電の増加率が高く、特に2024、2025年には太陽光発電の増加が顕著です。

15次五か年計画
2026~2030年の15次五カ年計画に関し「中华人民共和国国民经济和社会发展第十五个五年规划纲要」によれば、CO2排出量に係わる目標は次のように示されています。

-2026年のGDP成長率の目標は4.5~5%とされますが、2030年までについては、毎年適切な範囲に設定されるとあります。なお、2025年のGDP成長率は5%でした。

-15次五カ年計画でGDP当たりCO2排出量を17%削減する。なお、14次五カ年計画の削減実績は17.7%と報告されています。

-15次五カ年計画でGDP当り総エネルギー消費量を約10%削減する。

-15次五カ年計画で、総エネルギー消費量に占める非化石燃料の割合を25%にする。なお、14次五カ年計画で同実績は21.7%でした。

なお、上記のGDPは実質GDP値と考えられます。

CO2排出量は再び増加する
GDP成長率は、今後低下傾向を示すことに間違いないと思います。本稿では、2026年のGDP成長率を4.8%と想定し、2030年は4%(1案)と3.6%(2案)のケースを検討しました。2026~2030年の平均GDP成長率は各々4.4%と4.2%です。

なお、15次五カ年計画には2020年比2035年までに1人当りGDPを倍増する目標がありますが、名目GDP値に対するもので、2030年のGDP成長率を想定する上であまり参考になりません。

2030年までのGDP成長率が定まれば、五か年計画のGDP当りCO2排出量の削減目標に従うと、2030年のCO2排出量は一意的に決まります。なお本稿では、このCO2排出量は、前述の筆者のCO2算出値と同じものとしています。

また、GDP当り総エネルギー消費量と非化石燃料比率の目標値から、2030年の総エネルギー消費量と非化石燃料エネルギー消費量も一意的に決まります。

上記の15次五カ年計画の各目標値が、2026~2030年まで毎年直線的に変化すると仮定し、1案のGDP想定に対する2030年までのGDP、CO2排出量、総エネルギー消費量、化石燃料エネルギー消費量および非化石燃料エネルギー消費量の推移を図-7に示しました。2025年までは実績です。

同グラフは、各項目の2025年実績値を100として推移を示したものです。このグラフ表示を用いた理由は、CO2排出量など5つの諸量を1枚のグラフに表示するためと、2025年を境に各増加率(グラフの傾き)がどの様に変化しているかを分り易く示すためです。



図-7で、2024年のCO2排出量の前年比増加率は低下し、2025年にはほぼ前年並み(筆者の算出値は誤差かもしれませんが+0.3%)になっています。

しかし、2026年以降再び増加し2029年にピークに達し算出値は2025年比で3%増加、2030年には2.9%増加となっています。

図-8には、2022年以降の範囲を少し拡大し、GDP成長率の1案と2案の比較を示しました。1案よりGDP成長率か少し低い2案のグラフは、何れも1案より少し低い値になっています。

2案のCO2排出は、2028年にピークに達し2025年比で2.5%増加、2030年には2%増加となっています。



CO2排出量の減少増加原因
中国の総エネルギー消費量は、増加率は低下していますが、増加を続けています。一方、CO2排出量は、2025年に前年比増加量がほぼゼロになったあと、再び増加しています。

その原因は、図-7の非化石燃料エネルギー消費量の増加率(グラフの傾き)に示される様に、2024、2025年に増加量が急増したことで、同年の化石燃料エネルギー消費量の増加量が低下しゼロに近付いたことにより、CO2排出の増加量もほぼゼロになったものです。

2026年以降新たな五か年計画に従うと、非化石燃料エネルギー消費の増加量は低下し、化石燃料エネルギー消費の前年比増加量が上昇することで、CO2排出量も増加します。

その後、総エネルギー消費量の前年比増加量が徐々に低下することで、2020年代末にCO2排出量は減少に転じます。

化石燃料の燃料構成が同じなら消費量が増加すれば、ほぼ同様の割合でCO2排出量も増加します。総エネルギー消費量が増加を続ける状況で、非化石燃料の導入拡大により、化石燃料の増加を抑制することでCO2排出量を減少に転じるには、総エネルギー消費の増加分以上に非化石燃料を毎年導入拡大続けること必要になります。

総エネルギー消費が年率数%増加する国が、CO2排出量を減少させ続けることは思いの外大変です。

なお、図-7を注意してみると、2025年に化石燃料エネルギー消費量は少し増加しています。その原因は、CO2排出量の変化には、セメント製造による石灰石由来のCO2排出量の影響や、図-2に示したIPPU分野のCO2排出量が含まれているためです。

太陽光発電導入量の増減
2024、2025年に非化石燃料エネルギー消費量が急増した原因は、太陽光発電の発電電力量が前年比40%前後と急増したことが原因で、図-6にも示されています。

化石燃料の燃焼により直接的に排出されるCO2を減少させるには、再生可能エネルギーを導入拡大することで化石燃料の消費量を減少させるか、石炭から天然ガスへの転換により消費する化石燃料の低炭素化を図ることが効果的な方法です。

中国は天然ガス消費量の約40%を輸入しており、エネルギー自給率維持の観点で、石炭から天然ガスへの燃料転換はあまり進んでいません。そのためCO2排出削減には、主に風力や太陽光発電の導入拡大の対策が取られてきました。

2020~2025年の五か年計画の目標として、GDP当たりCO2排出量を2020年比18%削減する目標が設定されており、その達成のため太陽光発電の導入拡大が行われたものと思います。

変動型再生可能エネルギー発電
風力や太陽光発電は、天候次第で出力が変わる変動型再エネ発電です。特に太陽光発電は、平均電力に対するピーク電力の比率が高いため、太陽光発電のピーク出力時に、他の発電出力を減じても電力需要を越え、グリッドに投入する電力量を制限する事態が生じます。

2025年中国平均の出力抑制率の実績は、風力発電、太陽光発電ともに5%を越えたと報じられています。変動型再エネ発電の大規模開発が行われている内陸の北西部や北部は電力需要が少ないため、出力抑制率はかなり高い値となっています。

出力抑制率を低く抑えるには、送電網を増強することで需給ギャップを広域で吸収することや、電力の安定供給のために系統運用の高度化が必要になります。今後更に変動型再エネ発電の導入が進めば、需給ギャップを時間的に吸収する電力貯蔵や、季節的に吸収する変動型再エネ発電電力を利用した水の電気分解による水素貯蔵も必要になるでしょう。

2026~2030年の五か年計画では、図-7に示した非化石燃料エネルギー消費量の増加率の低下で示されるように、過剰な太陽光発電の導入を止め、送電網の増強などとバランスが取れた計画にしたものと思われます。

3035年のCO2排出量
2025年10月に発表された中国2035年目標NDCには、2035年までにGHG排出量をピーク時より7~10%削減し更に改善を目指すと表明されています。

筆者のGDP成長率の1案では、CO2排出量は2029年にピークになり、2025年比で3%増加することになりますから、2035年のCO2排出量の目標値は、2025年比で4~7%削減になります。

10年先のCO2排出削減としては、控えめな目標であると感じます。

おわりに
近年中国の太陽光発電や風力発電の導入拡大は著しいのですが、気候変動対策を主眼としたものというより、経済成長戦略として実施されているものと感じます。

気候変動対策としては、天然ガスの輸入代金が増大する問題はありますが、異常に高い石炭への依存を是正し、天然ガスへの燃料転換を進めることが必要と考えます。

ところが、2023年実績で石炭消費量の0.8%が石炭液化に、1%が石炭ガス化に消費されています。また、一般にはナフサ等を原料とする石油化学プロセスの代わりに、2020年頃から石炭ガス化を原料とするC1化学が増加しています。

今まで中国は、GDP当たりのCO2排出量削減しかコミットしないことから分かるように、気候変動対策が経済成長の障害とならないように推進してきたと思います。しかし、中国は最早発展途上国でなく、米国と並ぶ二大大国なのですから責任を果たしてもらいたいものです。

今後、CO2排出量を大きく増加させるのはインドです。やっと豊かさの入口に立とうとしているインドに、経済成長より気候変動対策を優先することを求めるのは無理であり、別途の対応が必要になると思います。


【筆者略歴】
田中雄三
早稲田大学機械工学修士。1970年に鉄鋼会社に入社、エンジニアリング部門で、主にエネルギー分野での設計業務、技術開発に従事。本稿に関連し、筆者ウェブページ、アマゾンkindle版「常識的に考える日本の温暖化防止の長期戦略」、多数のアゴラ投稿もご参照下さい。