2050年の温室効果ガス80%削減
原発ゼロでは困難

(2018年4月23日, 田中雄三)

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下記を掲載しました。ご覧ください。
IPCC 6次評価報告書、異常気象は如何に記載されているか


太陽光発電に大幅に依存する場合について、全国の電力需給の
毎時変動シミュレーションを追加するとともに、一部加筆しました。

(2019年8月)


ページ概要
 日本は2050年までに温室効果ガス(GHG)排出を80%削減し、今世紀後半の早期にGHG排出を実質ゼロにすることになっています。しかし、具体的な計画はなく、ほとんどの人は、どれ程大変なことか理解していないように感じます。

 日本は再エネでは、風力発電に関し陸上の立地が乏しく、洋上で着床式が適用できる水深50m未満の立地は多くありません。
 GHGゼロのためには原発を活用すべきですが、多くの人は原発の撤廃を望んでいます。
 関心が高まっているCCSについて日本の詳しいデータは乏しく、予備的調査で日本海側にポテンシャルがあることが指摘されています。一方、CO2排出源の火力発電所は、太平洋側の都市部に集中しており、CCSの立地上の制約が生じることが想定されます。
 以上は、日本でGHG排出ゼロを実現するのが容易でないことを示しています。


 ドイツは原発やCO2回収貯留(CCS)無しに、GHG排出を80%と95%削減するシナリオを公表しており、下記に紹介しました。
 ドイツと日本ではエネルギー事情が異なるため、日本は原発無しに、GHG排出の80%以上の削減は困難と私は考えています。多くの人は原発を撤廃すべきと考えていますが、原発を廃止する前に、原発無しにGHG排出ゼロを実行できるか検討すべきです。

 日本がGHGの80%排出削減をする場合、太陽光発電に大きく依存することになります。太陽光発電の発電量の変動と電力貯蔵の必要性について定性的には知られていますが、定量的に充分理解されていないと思います。その問題を定量的に示す、太陽光発電が高い電源比率での発電変動シミュレーションは見かけないように思います。
 そのため、近似的シミュレーションを自ら試みて以下に示しました。太陽光発電に大きく依存する場合、どのような対策が必要になるか理解戴けると思います。

 2010年頃からCCS(またはCCUS)への関心が高まりました。CO2が発生しても、大量のCO2を地下1000mの帯水層に封じ込めれば問題ないという構想です。それを長期に続けようというのですから、まともな考えとは思われません。CCS付きの火力発電の発電コストが、太陽光発電などより低い値になりそうであることが、関心を持たれている理由のようです。CCS技術がないと、GHG排出ゼロを達成できそうもないことも、関心が持たれている理由のようです。
 しかし、日本には、低い発電コストになる適したCCS立地は限られていると私は考えています。また、限られたCCSの利用策も提案しました。

 技術的裏付けも無いのに、GHG排出ゼロを世界に宣言することが正しいことと考える人が多いようです。先ずは、GHG排出ゼロの実施計画の検討が重要という想いで、雑なレポートで問題を提起しました。

 なお、下記は本件に関するPDFレポートです。
    2050年の温室効果ガス80%削減は原発ゼロでは困難

         上記レポートの概要と図表紹介
          (詳しくは、上記のPDFレポートを参照下さい)

GHG80%削減
 2009年のG8ラクイラ・サミットで、世界全体の温室効果ガス排出量を2050年までに少なくとも50%削減する目標を再確認するとともに、先進国全体として、80%またはそれ以上削減する目標が支持されました。日本からは、当時の麻生首相が出席しました。

 2016年、日本政府は「地球温暖化対策計画」を閣議決定しました。2030年度に、温室効果ガスを2013年度比26%削減する中期目標について対策や国の施策を明らかにし、目標達成の道筋を付けるとともに、長期目標として2050年までに80%の排出削減を目指すことを位置付けたものです。

26%削減なら可能
 温室効果ガスの26%削減は、原発がゼロでも、石炭火力を減らし、ガス火力への依存を大幅に増やすことで達成できると思います。但し、それは原発と石炭火力の廃棄、ガス火力の増設の経済負担を伴い、電力の過半をLNGに依存するリスクを前提とするものです。

 下図左の「約束草案」は、COP21で採択されたパリ協定のために、日本が提出したGHGを26%削減する目標の電源構成で、右図は原発をゼロにした上でCO2排出量が等しくなるよう石炭火力を減らしガス火力を増やしたものです。


ドイツの80%削減
 一方、世界では2050年までに80%削減する長期計画に関心が高まっています。経済が好調で余力のあるドイツは、GHGを80%~95%削減する計画を真面目に検討し、長期のエネルギー・シナリオを発表しています。そこには、福島第一原発の事故の後決められた、原発を廃止する計画も盛り込まれています。
 EUも温室効果ガスを80%以上削減するロードマップを発表しています。GHGを80%削減するには、再生可能エネルギーに全面的に転換することが必要になります。

 下図は、Climate Protection Scenario 2050、に示されているドイツの2050年の電源構成で、GHG80%削減と95%削減のものです。風力発電と太陽光発電の合計が85%~90%に達しています。ドイツの場合、風力発電が非常に多いのが日本と異なる点です。


日本の80%削減
 再生可能エネルギーに全面的に依存した、日本の80%削減での電源構成の想定は、まだ報告されていないように思います。上記「約束草案」の2030年の電源構成では、再エネの水力、バイオ・廃棄物、地熱の合計は約15%です。これ以上増やす余地は少ないと思われ、2050年の時点でも、精々20%くらいでしょう。
 化石燃料発電を最低限の5%くらいとし、原発をゼロにすると仮定すると、残りを太陽光発電と風力発電で賄うことになります。

 2030年の想定の太陽光発電は7.0%、風力発電は1.7%です。それを2050年までに、大幅に増加させなければなりません。太陽光発電が60%くらい、風力発電が15%くらいということになると思います。

 風力発電が少ない理由は、日本には偏西風を有効に活用できる立地が乏しいためです。消去法的に太陽光発電への依存が大きくなります。2050年の日本の電源構成は、例えば、下記のようなものになると思います。


  2050年の日本の電源構成の想定例
    化石燃料        5%
    水力・バイオ・地熱  20%
    太陽光発電          60%
    風力発電            15%


風力主体のドイツ、太陽光主体の日本

 風力発電と太陽光発電では、かなり違いがあります。風力発電の発電コストは、化石燃料の価格がもう少し上昇すれば、火力発電と同等になります。一方、太陽光発電の発電コストは、日本でも近年かなり低下しましたが、従来型の発電に比べて高い水準です。


 再生可能エネルギーの導入拡大には、発電量の変動対策が不可欠であると広く認識されています。しかし、風力発電と太陽光発電では、発電量の変動の大きさにも違いがあり、その対策に要する費用もかなり差が出るだろうことは、ほとんど議論されていないように思います。

発電量の変動
 中緯度地域で風力発電は、偏西風を有効に利用できる立地に設置されます。気圧配置により吹く風を頼りにしたのでは稼働率が高くなりません。

 一方、太陽光発電で発電できるのは昼間だけで、夏季は14時間、冬季は10時間くらいです。発電量は曇天では晴天時の30%、雨天では10%くらいと言われています。また、晴天でも11時から13時の2時間に、一日の約40%の発電量が発生すると言われます。発電量に大きな変動があります。

 日本の発電量の変動は、日本の気象データをもとに検討すべきものです。気象庁は全国1千近くの地点について、一時間ごとの日照時間や風向・風速などの気象のデジタル・データを公表しており、1978年頃からのデータがあります。そのデータを用いてシミュレーションを行えば、太陽光発電が60%の場合に、発電量がどれだけ変動するか、それなりの精度で予測することができます。
 しかし、そのようなシミュレーションは、筆者一人で行える作業ではありません。代わりに、日本とは違うかもしれませんが、ドイツの実績データを紹介します。


 下図は2017年7月3日から1週間のドイツの発電量のグラフです。ドイツの研究機関Fraunhoferの太陽光部門のウェブサイトEnergy Chartsに掲載されているものです。

 水力、バイオマス、原子力の上に、化石燃料の褐炭、ハードコール(瀝青炭など)、油、ガスのベースロード発電があり、その上に、風力と太陽光発電が示されています。

 夏季のデータのため、太陽光発電の値は大きくなっていますが、昼間のピークロード対応であることが推測できます。



 下図は、1月、4月、7月、10月の各1週間について、風力発電と太陽光発電だけの発電量を示しました。グレー系が風力発電、オレンジ系が太陽光発電です。ドイツの2017年年間実績で風力発電は18.8%、太陽光発電は7.0%を占めています。
 太陽光発電の発電量は、昼夜だけでなく、季節的にも大きく変動していることが分かります。風力発電に比べ、太陽光発電は発電量の変動が大きいことが感覚的に分かると思います。





 下図は同じドイツのデータに基づくもので、週間発電電力量をその年間平均値で無次元化したものです。横軸は、年初から第何週目かを示しています。週ごとのデータは変動が大きく、傾向を掴みずらいため、3区間の移動平均値を太線で併記しました。

 太陽光発電では、明確な季節変動があります。このことは、太陽光発電の比率が高くなると、季節的な長期の電力貯蔵が必要になることを示唆しています。なお、日本の太陽光発電の季節変動は、ドイツほどは大きくありません。


 下図は、各週でのピーク発電kWの値を示したもので、2017年末のドイツ全体の設備設置kWで無次元化しています。なお、ピーク発電kWは15分間の値です。

 太陽光発電の場合、第12週から第29週の間は、ピーク値が設備設置kWの60%以上に達しています。ドイツ全体の太陽光発電のピーク値ですから、晴れた地域もあれば曇った地域もあり平準化された値ですが、ドイツ全体の設備設置kWの60%くらいのピーク電力が頻繁に発生することを示唆しています。


日本の太陽光のピーク電力
 2050年の日本で、電源構成の60%が太陽光発電になった場合、ピーク時にどれだけの電力が発生するかを示しておきます。

 2050年の日本の総発電電力量は、現在と同じ1兆650億kWhくらいと想定され、その60%が太陽光発電です。太陽光発電の平均の設備利用率は約13%ですから、日本全体の太陽光発電の設備設置kWは、5億6,100万kWになります。太陽光発電の設備単価が20万円/kWになっても、設備費が112兆円かかりますから、大変なものです。

 前項でドイツの太陽光発電は、国全体の設備設置kWの60%くらいのピーク電力が、頻繁に発生することを記載しました。日本も同様なら、太陽光発電だけで、3億4,000万kWの発電電力が発生することになります。

 日本の年間平均の1時間当たりの発電量は1億2,000万kWですから、その3倍近い非常に大きな値です。

 電力は、常に需要と供給を等しくすることが必要ですから、太陽光発電による過剰な発電電力は電力貯蔵し、電力が不足した時に利用しなければなりません。

 ところが、電力貯蔵は、設備費が高価であるばかりでなく、電力貯蔵効率(貯蔵する電力と再利用できる電力の比率)は、思いの外低いものです。そこに大きな問題が生じます。


大規模電力貯蔵

 下記は大規模電力貯蔵技術を比較したものです。一国の発電量の調整に使用できる大規模電力貯蔵技術は限られています。


 蓄電池は電力貯蔵効率は高いのですが、充電容量が小さく1日以内程度で使用するのが一般的で、価格もかなり高いものです。


 揚水発電は、100万kWを超えるものも可能で、電力貯蔵効率も70%程度と高いのですが、24時間程度の充電期間で使用するものです。
 圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)も、24時間程度の充電時間で使用するもので、電力貯蔵効率は42-54%と少し低くなります。

 太陽光発電では、1か月程度晴天が続くことや、逆に雨天や曇天が続くことを考慮する必要があります。そのため、長期間の充電や長期の電力貯蔵が必要です。また、季節的な電力貯蔵も求められます。

 長期間の電力貯蔵には、電気エネルギーを化学的エネルギーに変換して貯蔵することが必要になります。

 その技術として、余剰電力で水を電気分解し、発生した水素を圧縮貯蔵するものや、水素をメタンや液体燃料に変換して貯蔵するものがあります。
 電力に戻す際には、ガスタービン複合サイクルなどが用いられています。ガスタービン複合サイクルなら、単基で数10万kWの発電が可能です。

 電気分解による水素を利用した電力貯蔵で問題なのは、電力貯蔵効率が低く、良いものでも35%程度です。
 水の電気分解と水素の圧縮貯蔵でのエネルギー損失があり、電力に戻すガスタービン複合サイクルの発電効率は60%と想定されています。それらを総合すると、良くても35%程度になります。

 太陽光発電に、蓄電池による昼夜の電力貯蔵を併用することは、発電設備と同程度の費用を要しますが、実施が不可能ではありません。
問題なのは、大容量で長期の電力貯蔵が必要になるだろうと考えられることです。


ドイツの対策
 発電変動に対する電力貯蔵量を減じるため、ドイツでは下記対策が想定されています。

①太陽光より発電変動が小さい風力発電が主体です。太陽光発電は、昼間のピークロード対応ですから、理に適っています。

②欧州の送電網:
欧州の国々は送電網で繋がっており、電力の輸出入で需給調整ができます。ドイツでは冬季に風力発電の発電量が高まり、余剰電力は近隣諸国に輸出されています。欧州全域での再生可能エネルギーの増加に伴い、欧州送電網増強の計画もあります。

③ノルウェーの揚水発電との接続:揚水発電は、短期間の電力貯蔵に有効な手段です。しかし、ドイツの水力発電の実績は3.8%に過ぎず、水力資源が乏しい国です。一方、北海を挟んだ対岸のノルウェーは、水力発電が96%に達する水力大国です。

ドイツの2050年シナリオでは、再生可能エネルギーの増加に伴い、ノルウェーの水力発電と接続する高圧ケーブルを追加する計画が盛り込まれています。


④デザ―テック:ドイツに限ったものではありませんが、サハラ砂漠などに太陽熱発電、太陽光発電や風力発電を設置し、高圧ケーブルで欧州やアフリカ各国に送電して利用する構想です。ドイツの2050年シナリオにも、蓄熱機能を備えた太陽熱発電をアフリカの砂漠に設置し、欧州送電網を利用し、夜間も含めて電力を輸入する構想が記載されています。


困難な日本の問題
 日本は発電変動が大きい太陽光発電が主体です。電力の輸出入で需給調整する外国と接続した送電網はありませ。再生可能エネルギー電力の供給を外国に頼ることもできません。


 電力変動による電力貯蔵が、どれだけ大変かを一例で示しました。太陽光発電が60%を占める場合、年間に6,000億kWhくらいを太陽光発電に依存することになります。
 その40%は直接消費するものと仮定します。残りの20%は昼夜の電力貯蔵、40%は長期間の電力貯蔵の上、消費するものとします。昼夜の電力貯蔵は揚水発電で行い、電力貯蔵効率は70%、長期の電力貯蔵は電解水素貯蔵として、電力貯蔵効率は35%と考えます。
 電力貯蔵による損失があるため、電力貯蔵した上で消費する電力は余分に発電しなければなりません。下記例では、6,000億kWhの1.8倍の発電が必要になることを示しています。


 太陽光発電の比率が20数%に達すると、そのピーク時の発電電力は、他の電源をゼロにしても、電力需要を上回り、過剰電力を電力貯蔵することが必要になると推測されます。

 その場合、発電設備に比べて安価ではない電力貯蔵設備が必要になるだけでなく、必要な発電量も増加します。

原発無しでドイツと同じようにやろうとしても、日本の方が遥かに困難なわけです。せめて、原発による20%程度の発電を残し、その分、太陽光発電に依存する発電量を減らすことが必要であろうというのが筆者の主張です。

         ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

再エネ転換-太陽光発電-毎時変動シミュレーション
      (2019年8月追記)
(1) 概要
 日本が再エネに全面的に転換する場合、上述のように電力供給は、太陽発電(PV)に大幅に依存することになると思います。

 なお、GHG排出削減の点では、CO2回収貯留(CCS)付き火力発電も考えられますが、コスト高と大量のCO2を貯留する立地などの点から、再エネに比べ優位性があるようには感じられません。

 太陽光発電に大幅に依存する需給変動シミュレーションがあるはずと探したのですが、探し方が悪かったのか見つからなかったため、近似的なシミュレーションを試みました。


気象庁は全国41箇所の地点で、1時間ごとの日射量(全天日射量)の測定データを公表しています。2018年の1年間のデータを用い、日本の総電力量の60%をPVが占める場合を想定し、1時間ごとの発電電力量の変動を試算しました。
 試算精度は少し悪くても、およその状況を見える形で定量的に示すことを目的としたものです。

 シミュレーションによる検討結果は、その実行が不可能に近いことを示しています。日本の温室効果ガス80%削減のためには、望ましくないとしても、再生可能エネルギーと原発を適度に組み合わせて用いることが必要であることを示唆していると考えます。

 

なお、このシミュレーションは、ウェブページに下記PDF版を掲載(2019年7月10日)しています。
  
温室効果ガス80%削減、総電力量の60%太陽光発電
         全国電力需給の毎時変動シミュレーション


(2) 日射量とPV出力

PVモジュールに到達する太陽光の波長別日射照度は、太陽高度などにより変化するため、一定ではありません。また、PVモジュール表面での太陽光の反射もあります。それらはPV出力に影響するため、一般的に測定されている全天日射強度とPV出力は、正確には比例しないことが指摘されています。また、モジュール温度もPV出力に影響します。
 全天日射強度から精度良くPV出力を予測する研究が行われていますが、その様な研究は筆者のような者ではなく、確りした研究機関が行う仕事でしょう。

 一方、全天日射強度とPV出力は、比例関係に近いことが報告されています。以下に示すシミュレーションでは、国内にある多様なPV設備をそのままに、合計設備容量を8倍以上に増やし、PV比率が総発電電力量の60%に達した場合を想定したものです。
 発電量のどれほど大きな変動が生じ、その対応策として、どれほど大容量の電力貯蔵が必要になるか、概要を示したいと試みたものです。近似計算ですが、それほど見当外れではないだろうと考えています。以下に具体的な方法を示します。

(3) シミュレーション方法
 ① 国際エネルギー機関(IEA)の統計データには、2018年の日本の正味総発電電力量は1.04兆kWh、PVによる発電電力量は724億kWhと示されています。
 このシミュレーションでは、年間総発電電力量は区切りが良い1兆kWhとし、PVは60%の6,000億kWhとして検討しました。

 ② 同じIEAの統計には、2018年の月ごとのPVの発電電力量は、図4-5のように示されています。なお、2018年の年初に比べて年末のPV設備の設置容量は約10%増加したと推定されます。年初のPV設備設置容量に換算した毎月の発電電力量を基礎データとし、年間合計のPV発電電力量が6,000億kWhになるように、毎月のPVの発電電力量を設定しました。


 ③ 日本全体では晴れた地域もあれば曇った地域もあり、PV発電量の変動は平準化されます。日射量が報告されている全国41地点について、各々PV設置容量のデータがあれば、日射量の荷重平均をすべきです。


 特に想定すべき日本全体のPV設置容量分布が無かったため、シミュレーションで日射量は、41地点の単純平均値を用いました。1時間ごとの全天日射量のサンプルを図4-6に示します。

 ④ PV発電電力量は、PVモジュール温度に依存します。モジュール温度は、気温の他に日射量や風速にも依存し、検討はそれほど簡単ではありません。
 温度の影響などを考慮するため、月ごとのPV総発電電力量を、月ごとの総日射量と1時間ごとの日射量の比率で比例配分することで、1時間ごとのPV発電電力量を試算しました。

 ⑤ 電力需要は、探せば全国のデータがあるのかもしれませんが、2018年の東京電力での1時間ごとの電力使用実績データ(合計2,912億kWh)を参考に、その比率で総電力量が1兆kWhになるよう設定しました。

 ⑥ 総電力量の60%を占めるPV電力量は、日射量に応じて変動するものとし、残りの40%は、年間を通じて一定としました。40%は前述のように、風力発電に、水力、地熱、バイオマス・廃棄物発電と、最小限の化石燃料発電を加えたものです。
 40%を一定電源としたのは、主に単純化してPVによる変動を示したかったためです。加えて、風力発電については、発電変動の適切な想定を思い付かなかったこともあります。また、水力発電のうち揚水発電は、変動運転を行うことになると思いますが、後述する電力貯蔵の一部を担うものと考えました。

(4) 電力需給
 60%太陽光発電需給シミュレンーションの結果の一部を、図4-1~図4-4に示しました。電力供給は夜間には不足し、昼間には正午頃を中心として大幅に過剰になります。





(5) PVのピーク発電量
 第一の関心は、PVのピーク発電量の大きさでしょう。毎日のピーク発電量とPV設備kWの比率の365日分のデータを図4-7に散布図で示しました。
 
 日本に導入されているPVは、累積設備容量で約1/4が住宅用、約3/4がメガソーラーです。平均の設備利用率は、住宅用が約12%、メガソーラーは約14%と言われますので、両者を併せた全体の設備利用率は約13.5%になります。設備利用率13.5%で、年間6,000億kWhを発電するには、逆算するとPVの設備容量は5.07億kWになります。

 図4-7は、PVのピーク発電量を5億kWで割ったグラフになっています。冬季のピーク発電量は、設備kWの0.4以下であるのに対し、5月前後に最大では設備kWの0.8に達しています。

 余談になりますが、2018年の最大のピーク発電量は、5月20日の11時から12時のものです。全天日射量が3 MJ/m2/h以下の地点は網走、静岡、松江、長崎、鹿児島の5箇所で、その他36箇所の平均値は3.58 MJ/m2/hです。


 (6) 月ごとの各種電力量
 図4-8には、月ごとの各種電力量を示しました。PV発電電力量は、冬季の12月、1月が低く、3月から8月頃が高水準です。40%を占める一定電源は、時間当たり一定のため月間値は少し変動しています。

 電力需要は、冬季の12月と1月、夏季の7月と8月が高水準です。その結果、12月と1月に大きな電力供給不足が生じています。
 このシミュレーションで、1月の電力不足は300億kWh近くに達し、約320億kWhの1月のPV発電電力量に匹敵する値です。
 一方、電力供給過剰は4月、5月が最大です。PV比率が高くなると、昼夜の電力変動に加え、発電電力量の季節変動も大きな問題になることが分かります。


 電力需給が均衡しない場合には、電力貯蔵設備を設け、充電か放電で調整することが必要になります。図4-8には、月々の充電だけと、マイナスで示した放電だけを各々合計して示しました。
 年間の充電量と放電量は等しく、このシミュレーションの場合、約3,100億kWhになっています。PVの年間発電電力量は6,000億kWhですから、PV発電量の約半分は、電力貯蔵設備への充放電を経た上で使用されることになり、電力貯蔵に伴う電力損失が問題になります。

(7) 電力貯蔵の必要量
 図4-9には、電力貯蔵設備を設け、充電・放電により電力需給の均衡を図るシミュレーションを示しました。冬季にはPV電力量が需要を下回り、電力貯蔵設備からの放電で補われ、4月から6月頃は、PV発力量が過剰で、電力貯蔵設備に充電されます。
 なお、シミュレーションでは、電力貯蔵量がマイナス域に入らないよう、1月初めの電力貯蔵量を約500億kWhと高い値に設定しています。また、年間合計の電力需給は等しくしているので、年初と年末の電力貯蔵量は等しくなっています。


 図4-9のデータにはPVの昼夜の発電変動も含まれていますが、グラフでは殆ど認識できない小さなギザギザで示されています。それに対し、季節による電力貯蔵量の変動は800億kWh(80,000GWh)近くで、非常に大きいことが分かります。
日本の既存の揚水発電の電力貯蔵容量は130GWhと言われ、それより遥かに大きな値です。
 また、日産自動車が2019年初めに発表した電気自動車で、航続距離364kmと発表された新型「リーフE+」の電池は、62kWhのようですから、13億台分くらいになります。
 なお、将来の電力需給変動の対策として、電気自動車のバッテリーを利用する考えがありますが、PVの余剰電力は昼間に発生するため、昼間使用している電気自動車は、PV電力の需給均衡に有効に利用することはできません。

(8) 電力貯蔵による損失
 大容量の電力貯蔵が必要になることで生じる問題は、膨大な設備費が掛かることに加え、電力貯蔵に伴う電力損失です。
 蓄電池の貯蔵効率は、使用劣化による効率低下を考慮すれば、平均的に80%前後と考えるべきでしょう。電力を一旦蓄電池に貯蔵すると、損失で20%が失われることになります。

 しかし、貯蔵効率が高い蓄電池を、PV発電の季節変動対策で必要となる800億kWh規模の電力貯蔵に利用することは、設備費が余りに膨大になるため不可能です。

(9) 大規模電力貯蔵技術
 前述の表3-2に示したよう、一国の発電量の調整に使用できる大規模電力貯蔵技術は限られています。太陽光発電で必要になる昼夜の電力貯蔵は、揚水発電や分散型の蓄電池を用いることになるでしょう。

 一方、太陽光発電の季節変動に対応した大容量で長期間の電力貯蔵には、電気エネルギーを化学的エネルギーに変換して貯蔵することが必要になるでしょう。
 前述のように、
余剰電力で水を電気分解し、発生した水素を圧縮貯蔵するものや、水素をメタンや液体燃料に変換して貯蔵する技術です。電力に戻す際には、水素焚きなどのガスタービン複合発電が用いられます。

この方式なら、貯蔵量が非常に大きくなっても、水素等の貯蔵設備が大きくなるだけなので、設備費が異常に大きくなることを避けられます。
 しかし、電力貯蔵効率が精々35%程度と低いことが問題です。電力貯蔵することで、電力の2/3が失われることになります。

(10)
電力貯蔵シミュレーション
 対策として、貯蔵効率が高い蓄電池などによる比較的小容量の電力貯蔵設備で、毎日の昼夜の充放電のかなりの部分をカバーし、残りの充放電用で主に季節変動対応として、貯蔵効率は低いが設備単価も低い大容量の電力貯蔵設備を組み合わせることです。それにより、貯蔵効率が低い大容量電力貯蔵設備の充放電量を減じることができます。

 ここでは、合計の電力貯蔵容量が5億kWh(500GWh)の小電力貯蔵設備と、その電力貯蔵量が上限に達した場合の充電と、貯蔵量がゼロになった場合の放電は、大電力貯蔵設備で充放電するものとしてシミュレーションを行いました。

 図4-10、図4-11は、小電力貯蔵シミレーションの例、図4-12は大電力貯蔵の年間シミュレーション結果です。





 このシミュレーション結果では、各々小容量と大容量の電力貯蔵の年間の充放電量は、ほぼ同量の約1,500億kWhになっています。
 なお、小電力貯蔵設備の貯蔵容量を大きくすれば、大電力貯蔵設備の充放電量は小さくなりますから、設備計画の際には、2種の電力貯蔵設備の容量比率の最適化が必要です。


 前者の電力貯蔵効率が80%、後者の貯蔵効率が35%とすると、約1,300億kWhの電力が貯蔵損失として失われることになります。電力貯蔵損失を考慮すると、60%太陽光発電に必要な発電量は、6,000億kWhではなく、 7,300億kWhであることになります。

(11) 充放電速度
 電力貯蔵設備としては、必要となる充電速度、放電速度の大きさも重要です。2018年1年間の1時間ごとの充電量、放電量を散布図で示しました。
 大電力貯蔵では、充電は水の電気分解を想定していますが、最大部の一部を無視しても3億kWくらいの大きな量になります。それは、PVの最大ピーク発電量が4億kWに達するためです。
 大電力貯蔵の放電の最大値は約1.2億kWです。1.2億kWの水素ガスタービン複合発電か必要になることを意味します。

 



(12) 電力貯蔵を無くせるか
 PV出力の季節変動による大規模な電力貯蔵の必要性を指摘しましたが、PVの設備容量を大きくすることで、季節変動対応の大電力貯蔵を無くすことができるでしょうか。
 そのためには、図4-8に示したように、電力供給量が最も不足する1月にも、不足が生じないようにする必要があります。1月のPVの月間発電電力量は320億kWhであるのに対し、不足電力は295億kWhですから、PVの発電量を1.9倍(=(320+295)/320)に増やす必要があります。そうしたとしても、昼夜変動対応の電力貯蔵と、雨天・曇天が何日も続く場合の電力供給手段の必要性は残るのですから、このような方法は得策でないと思います。

 結局のところ、PV出力の季節変動による大規模電力貯蔵を無くするには、原発かCCS付き火力発電が必要になるということではないでしょうか。

(13) シミュレーション結果のまとめ
 以下に示す数値は、日本全体の合計の値です。
 ① PV発電量の最大ピークは、PV設備kWの80%に達します。

 ② PV発電量の昼夜の変動に加え、季節変動のため、電力貯蔵が必要になります。

 ③ 年間の電力貯蔵量は、年間のPV発電電力量の約半分(3,100億kWh)になります。
 ④ PV発電電力量の季節変動に対応する電力貯蔵量は極めて大きく、800億kWh(80TWh)近くになります。

 ⑤ この検討では、合計の貯蔵容量が5億kWhの主に昼夜の電力変動対応の小電力貯蔵と、主に季節変動対応の大電力貯蔵を組み合わせたシミュレーションを行いました。
 ⑥ 前者は蓄電池を想定。後者は、余剰電力で水を電気分解、水素やメタンなどの形態で圧縮貯蔵し、水素焚きガスタービン複合発電による再電力化を想定しました。
 ⑦ 前者の貯蔵容量を大きくすれば、後者の年間電力貯蔵量を小さくできるので、最適化の検討が必要です。

 ⑧ 5億kWhの小電力貯蔵を用いたシミュレーションでは、小電力貯蔵、大電力貯蔵とも、年間の電力貯蔵量は約1,500億kWhとなりました。

 ⑨ 小電力貯蔵の貯蔵効率が80%、大容量貯蔵の効率が35%とすると、電力貯蔵により約1,300億kWhの電力損失が発生します。
 ⑩ 電力貯蔵損失を考慮すると、60%PVの年間発電量は6,000億kWhではなく、7,300kWhになります。その場合のPVの設備容量は約6.2億kWになります。

 ⑪ 大電力貯蔵には、3億kW規模の水の電気分解設備と、1億kW規模の水素焚きガスタービン複合発電が必要です。
 ⑫ 大電力貯蔵を無くすため、冬季でもPV発電量が不足しないよう、PV容量を増大させる方法は、PV容量があまりに大きくなるため得策ではありません。

(14) 補足
 上述しませんでしたが、PVの過大なピーク電力のため、 送電網の増強が必要になるでしょう。また、電源周波数の制御に関する追加設備も必要になると思われます。

 単に総電力量の60%をPVで供給するだけなら、PVの年間発電量が6,000億kWh、PV設備容量が約5.1億kWで、設備単価が20万円/kWに低下すれば、PV設備費は約100兆円です。
 しかし実際には、電力貯蔵設備が必要になり、電力貯蔵損失が加わり、送電網の増強などの関連費用を含めれば、総設備費は200兆円近くになるかもしれません。

 60%太陽光発電に膨大な設備費を要するとしても、今から2050年を目指し30年間をかけて行うなら、できないことではないでしょう。
 しかし、問題は太陽光発電の設備寿命が短いことです。火力発電の設備寿命は30~40年、原発は40~60年と想定されています。
 それに対し、太陽光発電の寿命想定は20~25年です。加えて、蓄電池の寿命は、リチウムイオン電池なら10年(40,000回)くらいです。

 膨大な費用を投じ、2050年を目標に総電力量の60%を占める太陽光発電設備を整備しても、2050年には順次寿命がきてスクラップになります。2070年代を目指して再び太陽光発電設備を整備しなければなりません。

 太陽光発電を悪く言う趣旨ではありませんが、変動の大きい再生可能エネルギーは、適切な利用が必要であることを示すものです。


おわりに
 このページは、原発に賛成か反対かという意見はでなく、技術論を記載したものです。
 原発ゼロを主張するなら、温室効果ガス80%を如何にして達成するかも説明する必要があります。一旦、廃止した原発を、80%削減のために復活することになったら、あまりに愚かしいことです。
 温室効果ガスの80%排出削減は極めて困難な課題であり、本当に実行されることになるかは分かりません。しかし将来、異常気象の恒常化などで、80%削減が必要と認識されるようになった場合、発電の脱炭素化が必要になります。

 多くの人は望まないことでしょうが、日本では、太陽光発電などの再生可能エネルギーと原発を、適度に組み合わせて利用することが、恐らく不可避であると考えます。

         ◆  ◆  ◆

補足:CCSについて
 上記の検討で、CCSを考慮しなかったので補足として記載します。
世の中の動向

 IEAは2017年のレポートで、2060年時点で年間49億トンのCO2削減を担うことが期待されていると記載しています。これは世界のGHG排出量の約10%に相当します。IPCCも5次評価報告書で、CCSの利用なしには2℃未満の温暖化防止が難しいことを指摘しています。

筋悪の技術
 日本の年間GHG排出量の10%は、CO2の重量で約1億2,900万トンです。一方、日本人は平均して1日に約1kgの生ごみ(燃えるごみ)を排出していると言われます。日本全体で年間に約4,600万トンになります。都市ごみ焼却が本格的に始まったのは1970年代で、ごみ埋立場所の確保が懸念されたため、焼却することで約1/10に減容化することが主な理由でした。
 生ごみ問題と比較してCCSは、重量で生ごみの約3倍のCO2を、地下1000 mの帯水層に封じ込め続けようというのですから、まともな考えとは思われません。
過去の経緯
 米国では1980年代に、原油増進回収(EOR)目的で、生産量が低下した油井にCO2を圧入する設備が、多数建設されました。コロラド山中のCO2ガス田のCO2を超臨界状態でパイプラインで数百km南下したテキサスの油井に輸送し圧入するものです。経済合理性があったため、30件余りのCO2パイプラインが実際に建設され使用されました。
なぜ今関心が
 EOR目的以外の実規模設備は数件と少なく、CCSのコスト試算の情報は乏しいのですが、火力発電の排ガスから1トンのCO2を分離回収し、CO2パイプラインで輸送し、地下1000 m程度の帯水層に貯留することに要するコストは、数10~100米ドルという報告が多いようです。
 7,000円/tCO2と仮定すると、CCS無しの石炭火力(発電コスト12.3円/kWh、CO2排出量810g-CO2/kWh)と、LNG火力(発電コスト13.7円/kWh、CO2排出量341g-CO2/kWh)にCCSを付けた場合、発電効率の低下を考慮しない概略発電コストは、石炭火力が18.0円/kWh、LNG火力が16.0円/kWhになります。
 太陽光発電よりも発電コストが低くなる可能性があります。また、既存の火力のCO2排出が規制された場合には、CCSを設置することが必要になるでしょう。
その他の理由
 CCSに関する論文件数を調べると、2010年頃から急増していることが分かります。IPCCの5次評価報告書を準備している時期と重なるように思われます。GHG排出ゼロだけでなく、大気中のGHGを減らす必要性を主張するには、対応技術が必要です。数少ないその種の技術として、バイオマス燃焼とCCSを組み合わせる方法があります。
 また、あまり進展しない温暖化防止を促進するには、巨大なエネルギー産業の賛同を得ることが必要と考えたのではないでしょうか。CCSならエネルギー産業にも同意してもらえるという政治的判断が働いたのかもしれません。

日本のCCS立地
 日本には、原油生産が終わった油井は殆どありません。また、CO2の貯留立地に関する地下構造の詳しい情報も乏しいのが現状です。CO2貯留立地の予備的調査により、日本海に貯留立地のポテンシャルがあることが示されています。
 一方、CO2の排出源である現状の火力発電所は、電力需要地に近い太平洋岸の都市部に集中しています。両者を結びつけるのには、日本列島を横断するCO2パイプラインが必要です。日本の都市部や山岳部を通るパイプラインは、中東の産油国などの場合と比べて驚くような建設費になります。そのため、CO2の船舶輸送も検討されているようですが、輪をかけた筋悪技術と言うべきでしょう。
 日本海側の地下帯水層の立地の近くに火力発電所を新設するにしても、広い土地を見つけることは簡単ではないと思います。日本の場合、CCSのための発電所と貯留の立地が、大きな制約になると考えます。総発電電力量の10%を超えるようなCCS付火力発電は想定し難いと考えます。
日本のCCSの役割
 GHG排出ゼロを達成するため、限られた数のCCSを如何に利用すべきか、2つの用途を提案します。
 一つは、高炉製鉄のように、CO2排出ゼロが非常に難しい工業プロセスに利用することです。高炉製鉄では、酸化鉄である鉄鉱石をコークスで還元するためCO2が発生します。CO2排出の大幅削減のため、例えば、水素による還元の開発がおこなわれています。新プロセスを開発しても、削減できないCO2の対応策としてCCSの利用を考えるべきです。
 もう一つは、太陽光発電に大幅に依存する場合の利用です。太陽光発電は、晴れた日でも1日の1/3しか発電しないのですから、蓄電池と一対で利用することが不可欠と考えます。
 そうしたとしても、上記のシミュレーションで示したように、太陽光発電には、発電電力量の季節変動があります。季節変動対策として、極めて大容量の電力を長期貯蔵するには、リチウムイオン電池ではあまりにも不経済です。対策として、太陽光発電の余剰電力で、水を電気分解し、水素の形でエネルギー貯蔵して、発電量電力が足りない冬季に発電することが検討されています。しかし、水素貯蔵方式では、貯蔵電力の約2/3がロスになります。
 その問題を解決するため、太陽光発電の発電電力量が足りない季節に、CCS付きの火力発電を運転することが考えられます。



     第5次エネルギー基本計画に対する筆者のパブリック・コメント
 第5次エネルギー基本計画には、2050年に向けた計画が追加されました。明記されていませんが、先進国における温室効果ガス80%削減が本当に実行されるのか、不透明であることを前提にしたものと想像されます。80%削減は極めて困難な課題であり、実行されるかは不確かであると思います。だからといって、80%削減計画を検討をせずに放置することは問題があると思います。
 日本が温室効果ガス80%削減を実行する場合、原発無しには不可能でしょう。例えば、ドイツが原発無しに温室効果ガスを80~95%削減するシナリオと比較しても、エネルギー事情が異なるため、日本の方が遥かに困難であると考えます。

 原発ゼロで80%削減ができないなら、80%削減目標を放棄しない限り、原発ゼロは実行できないことになります。また、再生可能エネルギーが増加する過程で原発はフェードアウトするという、常識的と感じられる主張も成り立ちません。80%削減の実施見通しが明確になるまで、脱原発はペンディングにしなければなりません。
 日本では、多くの人が脱原発を望んでおり、原発ゼロ基本法案も提出されました。一方、日本の「地球温暖化対策計画」には、2050 年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すことが明記されています。それらを考えれば、原発ゼロと80%削減が日本で両立するか、曖昧にしておくべきではないと思います。
 想定される技術革新をもとに、原発の有無両面での80%削減のシナリオを検討すれば、多くの人が納得できる説明を示せるはずです。意見が分かれる問題だからこそ、温室効果ガス80%削減のシナリオを公開し、エネルギー基本計画で明確に示すべきと考えます。