温暖化防止、シナリオ2050
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EUと日本の温室効果ガス実質ゼロ

トップ地球温暖化EUと日本のGHG実質ゼロ


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「常識的に考える日本の温暖化防止の長期戦略」




人口1人当りの排出量
 人口が多い大国は、国際的な責任も大きいのですが、温室効果ガス(GHG)排出量が多くなるのは当然です。各国のGHG排出量を比較する場合、人口1人当たりのGHG排出量を基本に、気候風土の違い、エネルギー多消費産業の有無、再生可能エネルギーのポテンシャルなどを勘案して総合的に評価すべきです。
 各国のGHG排出データは、国連の気候変動枠組条約(UNFCCC)のデータで、非CO2のGHGを含んだ値です。土地利用・土地利用変化及び林業(LULUCF)を含む場合は注記しました。なお、各国の人口は1990年から2018年の間で大きな変化はないため、簡単のために2018年年初の値を一律に使用しました。


EU全体のGHG排出量
 図-11.20は 、EU-27ヵ国と日本の人口1人当りのGHG排出量(with LULUCF)の1990年から2018年までの推移です。GHGの排出低減で、日本はEUに少し遅れていますが、GHG実質ゼロを達成するには、両者とも長い道のりが残っています。GHGの排出低減は、排出量が少なくなるほど困難さは増大します。



 図-11.21は英国を加えたEU-28と日本について、人口1人当りの一次エネルギー供給量のエネルギー内訳、図-11.22は発電電力量の電源内訳を1990年と2018年で比較しました。
 1人当たりの総一次エネルギー供給量(TES)は、EU-28も日本も同水準で、2018年の値は減少しています。発電電力量は日本の方が多く、電化が進んでいます。両者の内訳を見ると、EU-28は石炭から天然ガスへの転換が進展したのに対し、日本は石炭が増加していることが明瞭で、それがGHG排出低減の違いに現れています。





 上図の日本の電源構成の変化からは、石油火力に代わってLNG火力と石炭火力が増加したことが分かります。
 石炭火力の増加には、発電コストが低いことの外にも理由があります。日本は石油危機の教訓からエネルギーの安定確保のため、石炭、石油、LNG、原子力とエネルギーの多様化を基本政策としてきました。そのため、LNGへの依存が過度に高まるのことを避けたものと思われます。また、東日本大震災により停止した原発の代替電源として、2016年に始まる電力小売自由化により経済性が高い石炭火力が選択されたこともあると思います。
 日本は京都議定書でGHG6%削減の義務を負いましたが、2015年のパリ協定の採択頃まで、GHG実質ゼロが必要になる事態を真剣に考えていなかったものと思います。筆者もそう考えていました。そのため、石炭火力の新設は規制されませんでした。図-11.15に、1990年以後に日本で運転開始した石炭火力の発電容量を示しました。




EU各国のGHG排出量
 図-11.1に、EU-27に英国、ノルウェー、スイス、トルコと比較対象の日本を加え、2018年の人口1人当りのGHG排出量を示しました。森林のCO2吸収量等を考慮していないwithout LULUCFの値です。



 経済水準が低く、1人当りのエネルギー消費が低いために、CO2排出量が少ない国があります。図-11.2には人口1人当りの2018年の名目GDP、図-11.3には、1人当りの総一次エネルギー供給量(TES)を示しました。国名の後ろに*印を付けた国は、1人当りのGDPが3万USドル以下の国であり、それらの国を除いて、GHG排出量を紹介することにします。







EU主要国のGHG
 図-11.4には、2018年の人口1人当りGHG排出量を排出部門の内訳付きで示しました。マイナス側に示されているのはLULUCF分野の森林等によるGHG吸収量です。日本のGHG排出量は、グラフの中央より多い位置で、ドイツよりを僅かですが少ない値です。



 プラス側グラフの下から、エネルギー起源のGHGについてエネルギー転換部門、製造業・建設業部門、運輸部門、公共・商業部門、住宅(家庭)部門、農林水産部門、その他、燃料(生産など)からの漏出、工業プロセスと製品分野(原材料での使用によるGHGなど)、農業分野(農業に伴い排出される非CO2のGHGなど)、LULUCF(GHGの森林吸収などの土地利用、土地利用変化及び林業分野)、廃棄物分野が示されています。日本は、図示した17ヶ国の中で11番目に位置しています。

GHG関連データ
 GHG排出量の多寡は、温暖化防止に熱心か否かだけによるものではありません。GHG削減が容易な国と、そうでない国があります。温暖化防止のためには世界全体のGHG排出量を削減することが必要ですから、削減が容易な国は、削減が難しい国を支援する義務があると考えます。以下に示すグラフは、GHG削減に係わる各国の国情を知るためのものです。何れも人口1人当りで2018年の値です。

GHG排出ガス内訳


非CO2-GHG排出量は、GHG総量の10%弱から35%くらいの範囲にあります。EUでCH4や N2Oの排出は、主に牧畜や農業によるものです。
 エネルギー起源のCO2は、再生可能エネルギーや原子力にエネルギー転換することで削減できます。しかし、非CO2-GHGは、各排出源に対応した対策が必要になります。農業分野のように低濃度で分散して排出される非CO2-GHGの削減は簡単ではありません。

総一次エネルギー供給量(TES)内訳


最終エネルギー消費量内訳


 図-11.6はエネルギー種類の内訳、図-11.7は消費部門の内訳が示されています。エネルギー起源のGHG排出量を論じるには、各国のエネルギー消費量と、使用エネルギーの脱炭素化について知ることが必要です。寒冷地の国は、概して住宅のエネルギー消費が多くなります。また、鉄鋼などのエネルギー多消費費産業が多い国は、産業部門のエネルギー消費が多くなります。

発電電力量内訳


 発電電力量の電源内訳を示しましたが、GHGゼロを達成するには、エネルギー消費を低減するとともに、使用エネルギーを極力電化した上で、電力を脱炭素化することが基本になります。

発電電力量と電力輸出入


 欧州では各国が電力網で繋がっているため、電力の輸出入があります。例えば北海沿岸の風力発電は、冬季には発電量が高まり余剰電力が生じます。余剰電力は、欧州電力網を通し近隣諸国が安価に購入し、恐らく、火力発電を減らして対応しているものと思います。また、原発を廃止し、電力不足ののために恒常的に電力を輸入している国もあります。

総一次エネルギー供給量の脱炭素化


発電電力量の脱炭素化


総一次エネルギー供給と発電電力で、化石燃料の割合が明瞭に分かるように示しました。概して水力発電は開発が済んでおり、開発の余地は少ないでしょう。原子力は国民の意見に違いがありますが、使う気になればできることです。風力発電は風況の良い立地が必要です。太陽光は高緯度地域は不利になりますが、コストは高いが立地の制約は少ないでしょう。バイオマスは、供給資源量の制約があるため、大幅に発電量を増やすことは難しいと思われます。

工業分野のGHG排出量


 日本やドイツのように工業生産が多い国は、工業分野のGHG排出量が多くなります。ある国が工業生産を減らしても、世界全体の需要が減る訳ではなく、他の国が生産することになります。その国の方がGHG排出量が多ければ、世界全体ではGHG排出量は増加します。

運輸部門のGHG排出量


 主に自動車などの移動体の使用で排出されるGHGです。GHG排出ゼロのためには、運輸部門の電化と発電の脱炭素化が図られます。現状各国は、同じような自動車、航空機、船舶、鉄道車両を用いています。そのため、各国の運輸部門のGHG排出量の違いは、省エネの推進度合いをかなり反映していると考えられます。日本は運輸部門のGHG排出が少ない国です。

GHGゼロに近いスウェーデン

現在、GHG排出が実質ゼロ(GHG排出と森林等の吸収で合計ゼロ)の国は、幸せの国ブータンとアマゾン熱帯雨林に隣接するスリナムの二国と言われます。図-11.4から分かるように、EU諸国でGHG実質ゼロに最も近い国はスウェーデンです。

 発電電力量で水力が38%を占め、原子力も42%、バイオ燃料、廃棄物、風力もあり、電力の脱炭素化率は99%近くに達しています。加えて、森林等の吸収分がGHG排出量の80%以上あるためです。
 スウェーデンは、下水汚泥のメタン発酵によるガス利用など廃棄物のエネルギー利用など、環境問題に熱心であることは否定しません。しかし、それはGHG排出量が少ない理由の一部に過ぎません。GHG実質ゼロに近い要因は、人口密度が低いためで、そのことはあまり認識されていないと思います。
 下表に、スウェーデンと日本の比較を示しました。スウェーデンは日本より広い国土に、日本の10分の1以下の人口が住んでいます。水力発電や森林等のGHG吸収分であるLULUCFの総量は日本より少なく、GHG実質ゼロの達成に関して日本より恵まれた国土ということではありません。人口が少なく、GHG排出総量が少ないため、人口1人当りでみると、図-11.4のような評価になるためです。



 図-11.10に各国の人口密度を示しました。スカンジナビア三国は、人口密度が格段に低いことが分かります。ノルウェーやフィンランドは、現状の人口1人当りのGHG排出量はそれほど少なくありませんが、スウェーデンと同様の理由で、比較的容易にGHG実質ゼロを達成できる可能性があります。



 他国は人口密度を減らせるはずもなく、もしスウェーデンを見習える効果的な対策があるとしたら、原子力を増やすことくらいです。GHG排出低減に関して国情の違いがあります。それを無視してGHG低減を競うのは愚かなことです。

水力・原子力の比率が高い国
 水力発電や原発比率が高い国は、GHG実質ゼロ達成に近い国です。発電コストが高く変動が大きい太陽光発電や風力発電への依存が少なくて済むためです。それらの国を下表に示しました。



 ノルウェーを除けば、GHG排出量が少ない国です。ノルウェーは、北海油田を有する産油国で、原油や天然ガスの精製設備でのGHG排出が多いことに加え、省エネが進んでいないためと思います。化石燃料をほとんど使用しない時代になれば、ノルウェーもGHG実質ゼロの達成は有望でしょう。
 障害の一つは非CO2-GHGの問題です。上記の図-11.5に示したように、日本は非CO2-GHGは総排出量の10%以下ですが、EU各国では20%前後が多く、再生エネルギーに転換すれば削減できるCO2と異なり厄介な問題です。
 スウェーデンやノルウェーは、LULUCFでの森林等のCO2がかなりあるので、その値と非CO2-GHGを相殺できます。バイオマス火力発電で発生したCO2を回収貯留(CCS)すれば、大気中のCO2を回収したと評価する考えがあり、それを適用することも考えられます。しかし、内陸の小国であるスイスに、CCSの立地があるのか疑問です。
 以前は「net zero ghg」と言っていましたが、最近「carbon neutral」という表現が流行ってきたのは、ゴールポストを動かして、実質ゼロを達成するつもりかもしれません。

英国・イタリア・スペイン
 標記3国は、図-11.4に示したように2018年の人口1人当たりのGHG排出量がほぼ同じ値です。英国とイタリアは人口も国土面積も似通っており、スペインは国土面積は倍近くで人口は7割くらいの国です。

しかし、下表に示すように、1990年から2018年へのGHG排出量の変化は異なっています。英国はGHG排出量が58%に大幅減少し、総一次エネルギー供給量(TES)も85%に減少しました。イタリアはGHGは83%に減少しましたが、TESは微増しました。スペインはGHGは16%増加し、TESも40%近く増加しました。スペインの増加は経済成長によるものと思います。


 
 英国のGHG低減は、石炭から天然ガスへの燃料転換が第一の要因です。その他、1990年にはほとんどゼロだった風力発電やバイオマス発電が増加したこともGHG低減に寄与しています。バイオマス発電は、補助金制度の下で収益性があったために普及し、輸入燃料も使用されたと報じられています。
 イタリアは、チェルノブイリ原発事故後の1987年国民投票で原発廃止を決め、1990年までに全原発を封鎖したことが、電力供給に影響を及ぼしています。発電電力量の約15%の電力輸入があり、恒常的な電力不足にあると言われます。1990年時点で石炭は既にTESの10%と少なく、石油から天然ガスへの燃料転換がGHG低減に繋がり、その他、太陽光、風力、バイオの再エネ発電の導入もGHG低減に寄与しました。
 スペインも石炭から天然ガスへの燃料転換がありましたが不完全で、発電電力量の19%に達する風力発電の導入がありましたが、エネルギー消費の大幅増加により、2018年のGHG排出量が増加する結果となりました。

 欧州の天然ガスは、LNGで輸入している日本と事情が異なります。2013年のデータですが、欧州で天然ガスは北海油田など域内生産が34%、ロシアからパイプライン輸入が29%、ロシア以外からのパイプライン輸入が28%で、LNG輸入は9%に過ぎません。天然ガス価格もLNGより安価です。
 英国は、ノルウェーなどと共に北海油田を所有しており、そこで産出する天然ガスに燃料転換したもので、経済的負担が少ない対応です。

 欧州で風力発電は、大西洋や北海の沿岸が風況が良い地帯です。特に英国北部のスコットランドは風況に優れ、英国は欧州で風力資源が最も豊富な国です。一方、イタリアは、日本と同様に風況の良い立地が乏しく、風力発電より太陽光発電の方が多い欧州で数少ない国です。

 GHG実質ゼロの可能性について考えを記載します。英国はGHG削減に頑張ったと思いますが、これ迄の対策は経済負担が比較的少ないものです。今後はGHG低減には経済負担が増大するでしょう。それでも英国がGHG実質ゼロに熱心なのは、風力発電のポテンシャルが大きいことに加え、エネルギー多消費産業が少ないためと思います。人口1人当りで粗鋼生産量は日本の7分の1、セメント生産量は4分の1です。その他、生産量が減退している北海油田のフィールドが、CCSの立地として有望と考えているのかもしれません。
 国土に風力発電設備が林立することを許容するなら、必要な電力量を確保できるものと思われます。問題は、風力発電の比率が現在の3倍以上になった場合に、発電変動を制御できるかです。各国が電力網でつながっている欧州でも、火力発電がほとんど残っていない時代に、風力や太陽光発電の変動を制御できるかは疑問です。場合によっては英国も、原子力を増やす途を選ぶことになるかもしれません。

 風力資源が乏しいイタリアがGHG実質ゼロを目指すには、太陽光発電を大幅に増やすしか方法はありません。現状でも15%の電力を輸入していることを考えれば、それが容易でないことが分かると思います。太陽光発電は、発電コストと発電変動の両面で、風力発電よりかなり不利な対策です。原発を使用しない方針を維持するなら、常識的に考えると、GHG実質ゼロを達成できるようには思われません。

 スペインは風力資源があり、太陽光発電も特に障害は無く、現状で原発が20%、水力発電が13%あります。風力発電をメインに、原子力、太陽光、水力発電を総合的に利用すれば、GHG実質ゼロは達成可能かもしれません。少なくとも、イタリアよりかなり恵まれていると思います。


ドイツと日本
 日本の人口はドイツの約1.5倍、国土面積はほぼ同じですが、1人当りのGHG排出量も類似しています。また、1人当りのエネルギー消費量やGDPも近い値です。工業生産規模が大きいことなど、国情が似ているためです。
 EUの検討諸国と比べ、ドイツと日本は1人当りのGHG排出量が多い部類ですが、上記の図-11.4でエネルギー転換部門と製造業等の部門のGHGが多いことが要因です。
 前者は、使用エネルギーの脱炭素化が進んでいないことが影響しています。下記に、1990年から2018年までの日本とドイツのTESの推移を示しました。日本の石炭消費については上記しましたが、ドイツは石炭使用量は減少しましたが、かなり残っています。ドイツの石炭火力は、主に国内で産出し他の用途が少ない低質の褐炭を使用しています。石炭火力の廃止計画が出されていますが、設備寿命が残っているものの廃止は計画通りに進まないようです。





製造業等の部門のGHGの多さは、例えば英国やフランスと比べ、日本やドイツは、鉄鋼業などエネルギー多消費産業の規模が大きいためです。日本の鉄鋼業は、日本のGHGの13%を排出しています。前述したように、日本が鉄鋼業を止めて、その分の鉄鋼生産がエネルギー効率の悪い国に移行すれば、世界全体ではGHG排出量が増加します。ドイツや日本は全般的にエネルギー効率が高い国です。

 ドイツは2010年に、2050年までの長期エネルギー戦略 "Energy Concept" を公表し、その後もGHG削減の長期シナリオの作成、見直しを続けています。2016年に公表された"Climate Protection Scenario 2050"には、GHGを80%と95%削減するシナリオが示されています。何れも原発やCCSを使用せず、現在技術の延長線上で達成するシナリオで、技術革新を前提としたものではありません。
 下図はGHGを95%削減するシナリオの電源構成です。消費エネルギーを低減した上で、極力電化した場合の電源構成です



 ドイツは水力発電が数%と少なく、陸上と洋上風力発電合計で74%の電力を供給する計画になっています。太陽光発電は風力発電の22%と少ない想定です。ドイツ北部の北海沿岸は風況が良く、一方、風況が悪いドイツ南部に太陽光発電が想定されているものと思います。発電量の少ない太陽光発電を、昼間のピーク・ロード対応とすれば合理的な使い方です。
 風力や太陽光発電の変動対策として、欧州送電網の増強に加え、北海を挟んで隣接し水力資源が豊富なノルウェーの揚水発電と接続する高圧ケーブルを順次増強する計画になっています。
 しかし、GHG低減は計画通りには進捗していません。経済負担が大きい計画であり、それが実行されるのは、温暖化被害が温暖化対策費用を上回ることが予見される場合でしょう。

 日本のGHG実質ゼロの実行をドイツと比較すると、風力発電の立地が乏しいことが非常に不利な点です。日本はイタリアと同様に太陽光発電をメインとする計画になります。日本にCCSの立地が充分にあるかも不確かです。日本は風力発電の少なさを、ドイツより多い水力発電と原発でカバーする必要がありますが、原発の扱いも不透明です。
 2050年にGHG実質ゼロを目指すことを表明しましたが、その達成は技術革新を前提にしています。先ずは、たたき台であってもGHG実質ゼロのシナリオが無いことには進展しません。

 その他の国々を含め、詳しくは、下記PDFを参照下さい。
    EU各国のGHG排出量 

各国のGHG排出低減の推移

 1990年から2018年までの森林等による吸収を考慮したGHG実質排出量(GHG net emissions with   LULUCF)の推移を紹介します。人口1人当りの排出量です。GHG排出量の変化により、4グループに分けてみました。
 図-11.16は、28年の期間にGHG排出量がほぼ一貫して減少している国です。温暖化防止に熱心な国と考えてよいかもしれません。但し、上側半分の4か国は、日本の排出量と同等かそれ以上です。



 図-11.17には逆に、1990年に比べ2018年の排出量が増加した国です。温暖化防止を無視したわけではないでしょうが、経済成長によりエネルギー消費が増加し、GHG排出が増加した国が多いと思います。



 図-11.18は、1990年台前半にGHG排出量が急速に低減したが、その後顕著な低減が見られない国です。何れも東欧諸国で、旧ソ連圏の時代に省エネが遅れていた国々です。京都議定書によるGHG削減で、最初はGHG排出低減が急速に進みました。概して1人当りのGDPが低い国で、政策の重点が豊かさに置かれたためと思われ、その後は排出低減が進まなかった国です。



 図-11.19は残りの国々で、ほとんどがGHGの排出低減が僅かだった国で、日本もそこに含まれています。



 上記からは、GHGの排出低減、特にGHG実質ゼロに真剣に取り組んでいるのはEU加盟国の一部で、温暖化リスクに対する危機感は、EU全てに行き亘っている訳ではないという想いがします。

おわりに

 EU諸国と比べ、日本はエネルギー多消費産業が多く、風力発電の立地が乏しく、CCS立地については不確かで、原発の扱いは不透明です。GHG排出5位の大国として日本は、排出削減に努める必要があり、石炭火力の問題もどうにかすべきです。しかし、GHG実質ゼロを競うのは愚かなことです。
 電源構成で太陽光発電は7.4%、風力発電は0.7%しか導入されていませんが、再エネ電力の固定価格買取制度の買取費用総額は年間3.6兆円、賦課金だけで年間2.4兆円に達しています。GHG実質ゼロは、全国民に関わり、消費税引き上げなどより遥かに大きな問題です。首相の一存で表明するような問題ではありません。
 先ずは、GHG実質ゼロに向けた削減シナリオを示して議論することが必要です。また、日本が注力すべきは、GHG削減技術を開発、普及させることで、それが世界の温暖化防止に貢献する途です。