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「常識的に考える日本の温暖化防止の長期戦略」
菅首相は温暖化対策として、2050年までに排出量実質ゼロ、2030年までに46%削減を表明しました。当初戸惑っていた産業界も、それに向かって動き出したことを感じます。 排出量実質ゼロは、産業革命以降250年続いた世界を大変革する痛みを伴う極めて困難な課題です。 CO2排出量実質ゼロの達成は、消費エネルギーを極力電力化し、電力を脱炭素化することが基本になります。脱炭素電源の中心は太陽光発電と風力発電です。日本は陸上の風力発電立地が乏しく、着床式洋上風力発電を設置できる水深50m未満の遠浅の海岸が乏しいため、太陽光発電への依存が高くなります。 <日本の太陽光発電の設備価格は世界最高レベル> しかし、日本の太陽光発電は、主要国の中で設備単価が群を抜いて高いのです。下図は、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の下記レポートのデータを図示したものです。なお、輸入関税等で問題がある米国のデータは除きました。 Renewable Power generation Costs in 2019 2019年日本の発電電力量の7.4%を占める太陽光発電は、事業用(非住宅用)が容量比で約86%、住宅用が約14%を占めています。 IRENAに報告された日本の太陽光発電の設備単価は、例えば、ドイツの事業用の約1.8倍、住宅用は約1.4倍です。 <FITの失敗を繰り返すな> 日本の再エネ電力の固定価格買取制度(FIT)では、太陽光発電の海外との大きい価格差をそのままに、下図に示すように、高い買取価格が設定されてきました。 東日本大震災のあと政治主導で導入されたFITは、2020年度の買取費用総額が約3.9兆円、賦課金だけで2.4兆円に達しています。 制度開始を少し遅らせ、太陽光発電の設備価格を世界相場に近づくように誘導した上で、開始すべきだったのです。 因みに、FITの法律の附則第七条には、次のように記載されています。 「経済産業大臣は、集中的に再生可能エネルギー電気の利用の拡大を図るため、この法律の施行の日から起算して三年間を限り、調達価格を定めるに当たり、特定供給者が受けるべき利潤に特に配慮するものとする。」 2030年の排出量46%削減に関し、環境大臣は太陽光発電をできる限り導入すると述べています。導入費用を負担するのは、住宅屋根用なら住宅所有者、事業用メガソーラーなら電気料金に盛り込まれ電気利用者が負担することになります。 太陽電池モジュールは世界的に取引されている商品ですから、日本が異常に高くなるはずはありません。太陽光発電の大量導入に先立ち、日本の太陽光発電の設備価格を、世界水準に近づける努力をしてもらいたいものです。FITの失敗を繰り返さないよう願います。 <変動再エネ電源の発電コスト> 最新の太陽光発電や陸上風力発電の発電コストは、既存の石炭火力の限界費用よりもかなり低くなっている、という記載を目にします。太陽光や風力発電は、発電コストが高いと考えていた方は驚くと思います。その情報は、英国の非営利シンクタンクCarbon Trackerの一連のレポートがもとになっているようです。 太陽光や風力発電が増加した結果、多くの国で電力供給容量が過剰になっています。各種電源の運用では、太陽光発電や風力発電などの変動再エネ電源は停止されることはなく、過剰電力の発生を避けるには、石炭火力の停止や調整運転が行われます。その結果、石炭火力の設備利用率は著しく低下しています。 加えて、石炭火力は、環境規制を満たすため改造費や、CO2税などの環境対策運転費の増加があります。また、環境対策の設備改造は、設備停止を増加させます。 既存の石炭火力は、設備利用率の低下と運転費の増大により、発電コストが大幅に増加しています。一方、太陽光や陸上風力発電は発電コストが低下しており、石炭火力との関係が逆転しているといるという主張です。 IEAのロードマップのAnnexにも、同様の趣旨で、2020、2030、2050年の発電コストが掲載されており、実績を反映したものと思われる2020年の値を下表に示しました。 但し、上表の太陽光発電や風力発電など変動再エネ電源の発電コストには、発電変動の対策費用が含まれていません。 例えば、太陽光発電だけで自立した社会を考えると、夜間の電力供給のために蓄電池が必要になり、雨天曇天が長期に続く場合や、太陽光発電の発電量の季節変動に備え対策が必要になります。 電力システムで、変動再エネ電源の比率が低い段階では、その他の電源の運転を調整することで、変動再エネ電源の発電変動を吸収できます。しかし、変動再エネ電源の比率が増加すると、発電変動の対策が必要になり、対策費は急速に増大します。例えば、電力網の増強、電力貯蔵設備の設置、変動運転ができるバイオ燃料や水素などの脱炭素燃料の火力発電などが必要になります。それらの費用は、変動再エネ電源の導入コストと見做すべきで、別途にその種の検討も行われています。 太陽光と石炭の何れの発電コストが低いかは別にして、温暖化への世界の取り組みのもとで、石炭から太陽光や陸上風力発電への移行は趨勢です。世界水準に比べて異常に高い日本の太陽光発電の設備価格是正は当然のことです。 <太陽光発電の設備寿命> 太陽光発電の設備寿命は、一般に20年で評価されます。十分なデータは無いようですが、実態は25年前後と考えられています。何れにしても、2020年代に導入された太陽光発電は、2050年前後にはスクラップになり、2050年の排出量実質ゼロにはあまり役立ちません。 太陽光発電の比率が高くなった段階では、リチウムイオン電池などの蓄電池とセットで使用することが必要になりますが、電池寿命も20年と想定されており、同様のタイミングでスクラップになります。 新築住宅に太陽光発電を設置することを政府は推進するようです。住宅寿命は50年前後ですから、その間に、太陽光発電と蓄電池を更新することが必要になります。古い太陽光発電設備を撤去、廃棄処分し、新たな設備を設置する費用を低減する対策を、政府は講じてもらいたいと考えます。 日本の住宅用太陽光発電の設備価格が高くなる要因の一つは、中間マージンの多さです。太陽電池モジュールやコンバータ、蓄電池は、国際的に取引されている製品ですから、国際価格で入手できるようにし、それらを、少ない現場作業で交換できる設備規格を作るべきです。 <太陽熱温水器> 2050年の排出量実質ゼロのためには、給湯用の都市ガスも無くなると考えるべきです。 都市ガスをバイオガスに代替することは、経済的供給の面から無理と思います。太陽光発電の余剰電力を、現在の夜間電力温水器のようなに利用することは愚かな方法です。電気は質の高いエネルギーで、電気自動車を動かしたり、水を電気分解して水素を製造することができます。40℃程度の温水を作るために使うべきではありません。 2050年までに、ほとんどの住宅の屋根には、太陽熱温水器が設置されることになります。住宅の屋根に太陽光発電と共に、太陽熱温水器を設置するスペースを確保することが必要になります。太陽光発電設備のメーカーなら、太陽光発電と太陽熱温水器のハイブリッド装置を開発することを考えるべきでしょう。 <おわりに> 達成困難な実質ゼロの目標を表明したことは、政治の評価にはなりません。政治と行政が知恵を絞り、国民負担を如何に少なく済ませたかが評価です。 |