2050年-温室効果ガス実質ゼロ
気候変動サミット、2030年の削減目標比較

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「常識的に考える日本の温暖化防止の長期戦略」




気候変動サミット
 米国バイデン大統領の主催で2021年4月、気候変動サミットが開催され40か国の首脳が参加しました。一部の国は、2030年までの温室効果ガス削減目標の大幅な引き上げを発表しました。
 表-1に、排出量が多い国の2030年の目標を示しました。米国、日本、カナダは今回引き上げた削減目標です。ドイツの55%削減は2020年12月に加盟国が合意したEUの削減目標で、ロシアの値は2020年11月に発表されたものです。
 最大の排出国の中国と、2020年代に人口で中国を抜き排出量でも1、2位を争うことが確実なインドは、2030年の排出目標を示していません。





GHG排出量の指標
 各国の削減目標は基準年がバラバラで、温室効果ガス(GHG)削減目標とCO2削減目標が混在しています。基準年の時点で排出量が多い国と少ない国があるのですから、削減率は意味が乏しく、2030年の絶対値を評価すべきです。
 しかし、人口が多い大国は、国際的な責任も大きいのですが、GHG排出量が多くなるのは当然です。国情が異なる国々の排出量を比較する指標が必要になります。

 その種の指標として、人口1人当たりの排出量、1人当たりの累積排出量、GDP当たりの排出量、GHG1トンを削減する費用、などが論じられています。GDP当たりの排出量は、経済活動の脱炭素化の度合を示すものです。GHG1トンを削減を削減する費用は、GHG排出削減の経済負担を公平にしたり、経済負担が少ない部分からGHG削減を行うためなどに用いられます。

 単純明快なのは人口1人当たりのGHG排出量での比較です。豊かな国も貧しい国も、1人当たり同量のGHG排出枠を保有すべきという平等の原則に基づく指標です。この指標を基本に、2次的因子として各国の気候風土の違い、エネルギー多消費産業の多さ、再生可能エネルギー賦存量の多寡などを考慮して評価すれば、各国のGHG排出量の多さや排出削減の遅れなどを、かなり的確に示すことができます。

2030年の1人当たりGHG
 表-1の削減目標に従い、表-2に2030年の人口1人当たりの排出目標を示しました。UNFCCCの排出実績データを用い、森林等の吸収分を考慮しない(without LULUCF)値で、人口は2019年のデータを用いました。表の上段はGHG排出量、下段はCO2排出量です。



 2030年の1人当り排出量は、米国とカナダは同水準です。カナダは厳しい削減目標を表明したくなかったけれど、米国に比べて見劣りしてはいけないと考えたものと思います。
 ロシアは、それに比べかなり多い排出量です。寒い国で暖房のエネルギー消費が大きいことを考慮する必要がありますが、省エネが遅れていることは確実です。

 
日本の1人当たり排出量は、下図に示すように、米国の55~63%と大幅に少ないことが分かります。政治主導で根拠なく決めたためでしょう。GHG削減に熱心なドイツと比べても僅かですが少ない値です。



ドイツと日本
 ドイツの人口は日本の約7割、国土面積はほぼ同じで、2018年の1人当りGHG排出量も同じような値です。1人当りのエネルギー消費量やGDPも近い値で、それは、工業生産規模が大きいことなど国情が似ているためです。

 しかし、GHG削減に関しては、大きな相違があります。日本は、風力発電に関し偏西風を有効に利用できる立地が乏しいことです。洋上なら風況の良い場所があるのですが、着床式の風力発電を設置できる水深50mまでの遠浅の海岸は多くありません。50m以深に対応した浮体式の風力発電は開発途上の技術で、経済的に実用にならないだろうと考えています。

 一方、ドイツ北部の北海沿岸は風況の良い地帯です。また、写真が紹介される隣国デンマークの洋上風力と同様に、ドイツにも北海に洋上風力に適した立地があります。
 下図は、ドイツの温暖化防止の長期シナリオに示されている、GHG排出量を95%削減する構想の電源構成です。発電電力量の4分の3は、陸上と洋上の風力発電とされています。太陽光発電は16%で、昼間の電力需要のピーク対応と考えられ、合理的な計画です。
 また、北海を挟んで隣接するノルウェーは豊富な水力資源を有しており、ドイツは風力発電の発電変動の対策として、ノルウェーの揚水発電と接続する高圧ケーブルを順次増強する計画としています。



 日本は、風力発電の立地が乏しいため、再エネ電源を増やすには、多くを太陽光発電に依存しなければなりません。風力と比べ太陽光発電は、発電コストが高いだけでなく、発電変動が大きいことが問題です。2030年までにGHGを46%削減するため、太陽光発電の比率をかなり高める想定のようですが、発電変動対策として電力貯蔵設備の導入も必要となるでしょう。

 GHG実質ゼロを目指す場合、太陽光発電と電力貯蔵設備をセットで設けることが必要になります。リチウムイオン電池の電力貯蔵設備は、太陽光発電と同様に高価で、発電コストは約2倍になります。
 太陽光発電もリチウムイオン電池も設備寿命は約20年と想定されていますから、2020年代に苦労して設置した設備は2050年までにスクラップとなり、撤去しなければなりません。

 世界にはGHG削減に有利な国と不利な国があります。日本は、エネルギー多消費産業の規模が大きく、風力発電の立地が乏しく、CO2の回収貯留(CCS)の立地の賦存は不確かで、原発の利用は不透明です。
 日本は排出量5位の大国として、GHG削減に努める必要がありますが、トップを競うべきではありません。GHG削減技術を開発、世界に普及させるのが、温暖化防止で世界に貢献する途です。

GHG実質ゼロとは何か
 産業革命により、木材から石炭へのエネルギー転換が起きました。その後、石油、天然ガス、原子力が加わり、
先進国はエネルギーを大量消費をすることで、現在の豊かさを築きました。そして、GHG実質ゼロは、化石燃料をほとんど使用しない社会に世界を転換することです。

 グリーン投資に焦点を当てた報道が目立ちますが、化石燃料に係わる多くの設備が不要になり、転職を余儀なくされる人が続出するでしょう。膨大な再エネ投資により、能力のある人は転職に困らないでしょうが、本来必要な財政支出が圧迫され、しわ寄せは常に弱者に及びます。GHG実質ゼロは、達成がほとんど不可能と思われるような困難な課題で、痛みを伴う大変革です。

 全国民に係わる大問題ですから、それでも変革が必要であること、また、産業革命以降の平均気温上昇が2.5℃では駄目で、1.5℃が必要な根拠を、政府は国民に説明する責任かあると思います。

 以下は補足説明です。GHG実質ゼロ(Net-Zero GHG Emissions)とCO2実質ゼロ(Carbon neutral)が意図的に混同されて使用されているように感じますが、両者はかなり違います。
 IPCCの5次評価報告書によれば下図に示すように、2010年の推定で化石燃料の使用と工業プロセスから排出されるCO2は、GHG総排出量の65%に過ぎません。

同図で11%を占めるCO2(FOLU)は、Forestry and Other Land Useの略で、林業及びその他土地利用のことです。森林が開墾され畑地などに土地利用が変更されると、樹木などに蓄えられていた炭素量が変化し、それに対応したCO2量です。
 非CO2のGHGとして、メタンが16%、亜酸化窒素が6.2%、フッ素を含むガス類が2%があります。農業部門などで低濃度で分散して排出されるメタンや亜酸化窒素の削減は簡単ではありません。
 最近、脱炭素化、Carbon neutralが多用されるのは、CO2が大気中で分解しないこともありますが、削減が難しいGHGを除く、ご都合主義によるように思われます。



 化石燃料由来のCO2の削減に限定し、発電について見ることにしましょう。下図は2018年の世界の電源構成です。石炭が38%占め、発展途上国が石炭火力を止めるには種々の障害があることが想像できると思います。また、多くの国が、石炭から天然ガスに転換を進めたら、天然ガスの供給が追い付かないでしょう。

 現状、風力発電は4.8%、太陽光発電は2.1%に過ぎず、化石燃料発電の
65%を再エネに転換するには気の遠くなるような作業が必要になります。



 GHGであれ、CO2実質ゼロであれ、
産業革命以降250年間にわたり築いてきた社会を大変革するものです。太陽光発電を遮二無二導入すれば達成できる問題ではありません。多面的な検討に基づく確りした計画が不可欠です。


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