温室効果ガス排出の2/3は途上国②、
再エネ発電の変動

Two-thirds of greenhouse gas emissions are in developing countries, making it difficult to achieve the target ②


田中雄三 2023.12.8
トップ地球温暖化GHGの2/3は途上国②





温室効果ガス排出の2/3は途上国①、目標達成は困難からつづく

2. 発展途上国で風力・太陽光発電の導入は進まない
問題の背景
発展途上国が経済成長しつつGHGネットゼロを目指すなら、再生可能エネルギーの大幅導入が不可欠です。

再エネのうち水力は優先的に開発されてきたため、拡大できる余地はあまり有りません。バイオマスは利用する土地の制約に加え、食糧生産と競合する問題があります。結局、風力や太陽光発電に多くを依存することが必要です。


2020年世界の発電電力量に占める風力発電の比率は6%、太陽光発電は3%です。パリ協定採択後5年になりますが、導入はあまり進んでいません。発電コストが高かったこと、天候により出力変動があることが、導入が進まない原因です。

図-14、-15に7グループについて、総発電電力量に対する風力発電と太陽光発電の比率の推移を示しました。風力発電の導入量が多いのは、発電コストが太陽光発電よりかなり低く、風況の良い立地での発電コストは火力発電に近いためです。





EU-28で風力発電の導入が進んでいるのは、GHG排出削減に熱心なことに加え、北海や大西洋沿岸は風況が良いためです。欧州でも内陸部は、風力発電の導入はあまり進んでいません。

天候により発電出力が変動する風力発電や太陽光発電(Variable Renewable Energy, 略VRE)は、電力需要の増加に応えるためでなく、GHG排出削減だけのために導入されてきました。そのためVREの導入は、GHG削減に熱心なEU-28が一番多く、GHG排出大国の中国やインド、そして経済余力のある高所得国が続いています。

VREの将来の発電コストは、かなり低下し火力発電を下回ることも想定されているようです。しかし、VREのkW当たり建設費がガス火力並になったとしても、風力発電の設備利用率は25~33%、太陽光発電は14~17%と低く、火力発電と同じ年間電力を供給するには、設備利用率の違いだけ大きいkW容量が必要になります。

そのため、初期費用である建設費が火力発電より大幅に高いことも、資金が乏しい発展途上国が、火力発電ではなくVREを選択する障害になるでしょう。


総電力量に対する現状のVRE比率は一般に数%で、EU-28の一部の国を除けば、VREの出力変動が電力システム全体の問題になるレベルではありません。しかし、将来、VREが主力電源になると、VREの出力変動問題は重要になります。

本項ではVREの天候による出力変動に注目し、先ずドイツの事例でVREの出力変動の大きさと変動対策を紹介します。その上で、発展途上国でのVREの大幅導入の障害について記載します。


2.1 ドイツ事例に見る風力・太陽光発電の変動と対策

VREの出力変動とその対策について、ドイツの事例をウェブサイト「Energy-Charts」のデータで紹介します。なお、日本でなくドイツのデータとしたのは、必要なデータ入手が筆者にとって容易であったためで、他に理由はありません。

Energy-Charts
「Energy-Charts」は、ドイツを代表する研究機関の一つ「フラウンホーファー」のソーラーエネルギーシステム研究所(ISE)が開発運営しているウェブサイトです。

「エネルギー生産とスポット市場価格を表示するインタラクティブなグラフィック・サイトで、エネルギー変換に関するすべての要因に関する透明で客観的な議論を促進することを意図したもの」と紹介されています。


ドイツだけでなく、現状、欧州30カ国以上のデータが掲載されています。各電源の発電量の瞬時値の推移を週間、月間、年間のインターバルで表示でき、電力の需給調整がどの様に行われているか視覚的に理解することができます。

日量、週間、月間、年間の発電電力量や、近隣諸国との電力輸出入量なども掲載されています。また、電力のスポット価格の推移、風力発電や太陽光発電に係わる気候データ、石炭火力のCO2排出量の推移など、豊富なデータが掲載された優れものです。

下図はEnergy-Chartsから転載したサンプルで、2022年第27週(7月4日~10日)の発電量の推移です。タイトルに公共正味発電とあるのは、自家発を含まない、電力系統に投入された値の意味です。

日本も、太陽光発電などの比率を大幅に高める計画なのですから、この種の情報を公開すべきです。



風力・太陽光発電の変動

表-2に2022年ドイツの発電実績を示しました。日本の年間発電電力量は1兆kWh(1000TWh)前後で推移していますから、ドイツは約半分の発電規模です。

電源構成で、陸上と洋上の風力発電の合計は約25%、太陽光発電は約12%を占めています。




図-16は、2022年ドイツ全体の陸上と洋上合計の風力発電の発電電力量の変動を示したものです。週間計は、年間総発電電力量の平均の1週間分を100%とし、各週の風力発電電力量の割合を示したもので、月間計も同様です。ドイツ全体で地域的に平準化された変動であることに留意して下さい。



風力発電の週間計は6~65%の範囲で変動しています。年間総発電量に対する風力発電の割合は25%ですが、風力発電だけで総発電電力量の10%以下の時があれば、60%以上の時もあるわけです。また、風力発電の年間平均値との比率なら、0.3~2.6倍の範囲で変動していることになります。

月間計の変動は時間的平準化により、発電変動は週間計より小さい値です。なお、1日ごとの発電変動は表示していませんが、1週間ごとの変動より当然大きくなります。

月間計のグラフから、発電量の季節変動の大きさが明瞭に分かります。風力発電は、冬季の発電量が多く、夏季は少なくなっています。

図-17は、同様にドイツ太陽光発電の変動です。年間総発電量に対する太陽光発電の比率は約12%ですが、太陽光発電の週間計は1~23%の範囲であり、風力発電より更に大きい変動です。太陽光発電の週間計の年間平均値との比率は、0.1~2.0倍の範囲で変動しています。



太陽光発電の月間計でも季節変動の大きさが明瞭に示されています。太陽光発電の年間平均に対し、冬季は0.14倍、夏季のピーク月は1.7倍の範囲で変動しています。

図-18には、ドイツの陸上と洋上風力の各々について、週間の最小と最大発電量を示しました。縦軸は前図と異なり、各風力発電の年間平均発電量との比率であることに注意して下さい。



最小値は、陸上、洋上ともに、10%以下の期間が半分以上を占めています。最大値は、洋上より陸上風力の変動が大きく、年間平均発電量の4倍近くに達していることが分かります。


図-19は、同様にドイツ全体の太陽光発電の週間最大の発電量を示したものです。最小値は表示していませんが当然ゼロです。週間最大値は、年間平均値の1倍以下から6倍以上の範囲で変動しています。



以上はドイツの事例で、どこの地域でも定量的に当てはまるわけではありません。しかし、風力発電は冬季の発電量が大きく、太陽光発電は夏季が大きいのは、ドイツに限らず多くの地域で言えることでないかと思います。

本稿は発展途上国の問題を論じており、日本のデータを紹介することにそれほど意味はありませんが、念のため調べてみました。

図-20、-21に、2022年日本の風力と太陽光発電の月間発電電力量を示しました。資源エネルギー庁の「電力調査統計」のデータで、概略、自家発を含み、家庭用屋根の太陽光発電を含まない値ですが、厳密には電力調査統計のQ&Aを参照ください。






日本の天候に基づく風力と太陽光発電の発電変動は、ドイツより小さいことが分かります。それでも、季節的発電変動は、揚水発電や蓄電池で需給調整できるレベルではありません。

風力と太陽光発電を適切な比率で設置できれば、季節変動をある程度相殺できます。また、太陽光発電は、昼間のピークロード対応として有効です。現状、風況の良い立地での風力発電の発電コストは、火力発電に近いことから、風力発電をメインに、太陽光発電をピークロード対応とすることが一般に合理的です。

しかし、日本は風況の良い立地が乏しく、太陽光発電をメインにせざるを得ません。発展途上国でも、この種のことが問題になることでしょう。

現状の変動対策
出力が変動する風力や太陽光発電(VRE)の割合が増大すると、電力の積極的な需給調整が必要になります。

前記の「Energy-Charts」の図を参照下さい。現状ドイツでは、原子力、流れ込み式水力、バイオマス、廃棄物発電は、ほぼ一定の出力で運転されています。電力の需給調整のため、揚水発電と石炭火力(瀝青炭、褐炭)やガス火力を変動出力運転し、残りの需給差を電力の輸出入で調整しています。


ドイツは水力発電の立地が乏しいようで、揚水発電による調整量は、石炭やガス火力による調節量に比べて僅かです。また、2022年実績で正味電力輸出量(輸出マイナス輸入)は、年間総発電量の約6%とかなりの値となっています。

VREの発電変動があっても調整できるのは、化石燃料発電が総発電電力量の40%以上残っていることと、欧州各国が電力網で繋がり、電力の輸出入が行えるためです。

しかし、欧州各国で、変動出力運転ができる化石燃料発電が減少した時点では、例えば、冬季に風力発電の出力が増大した時は、何処の国でも電力が余剰になり、電力の輸出入による調整が成り立たなくなる可能性があります。

将来の変動対策
VREに全面的に依存する場合、変化する電力需要に対し、不足電力をどの様に補い、余剰電力をどの様に活用するかは重大な問題です。

ドイツ将来の発電量変動対策を、フラウンホーファーISEにより作成された下記「気候中立的なエネルギーシステムへの道」から紹介します。

WEGE ZU EINEM KLIMANEUTRALEN ENERGIESYSTEM
Die deutsche Energiewende im Kontext gesellschaftlicher Verhaltensweisen

2021年11月改訂:Klimaneutralität 2045

ドイツの2045年GHGネットゼロ目標に従い、同レポートには4つのシナリオが検討されています。

比較の基礎になる「参照」シナリオ、ボイラや燃焼エンジンなど従来技術の使用を継続する「永続」シナリオ、風力発電など大規模インフラ対策に抵抗がある「不受容」シナリオ、そして、エネルギー消費の大幅低減が進む「十分」シナリオの4つです。


図-22に、前記2022年実績の電源構成と対比して、「参照」シナリオの2045年の電力供給と電力使用の内訳を示しました。

2045年に想定されている電力量は、2022年実績の3倍近くです。風力発電は58%、太陽光発電が32%で、両者合計で90%を占めています。2022年の両者合計の37%から今後大幅に増加する想定です。残りは合成メタン等を用いたガス火力が6%で、水力発電、水素火力、電力輸入の合計が4%です。




2045年「参照」シナリオの電力使用量の想定で、民生部門、産業部門および運輸部門の通常の電力使用は全体の約6割で、残り約4割は発電変動対策に関連した電力使用です。表-3に、上記レポートに記載されている発電変動対策を示しました。



発電変動対策としては、電力貯蔵技術、余剰電力をエネルギー変換・貯蔵・再変換する技術(Power-to-X)、CO2排出につながらないディスパッチ可能発電の3つが重要になります。

VREに全面的に依存する電力システムでは、先ず、発電量の季節変動とピーク電力をできるだけ抑制した上で、種々の発電変動対策を設けることになるでしょう。

季節変動とピーク電力の抑制
風力発電は冬季に、太陽光発電は夏季に発電量が増大する季節変動があることを前述しました。また、太陽光発電の電力量は、晴れた日には正午前後の3時間で1日の発電電力量の1/3~1/2を占め、日内変動が大きい特性を有します。

そのため、風力と太陽光の併用で季節変動を相殺し、太陽光発電を昼間のピーク需要対応としピーク発電量が過大にならない計画が望ましいわけです。「参照」シナリオの電源構成は、風力発電をベースに、上記を考慮した太陽光発電比率を設定したものと推測されます。

季節変動で発電量不足が何週間も続く場合、バッテリーからの供給で不足電力を補うには、設備費が過大になります。また、揚水発電の貯蔵容量は、一般に立地面から制約されます。

風力と太陽光比率の計画を調整することで、発電量の過不足を無くすことはできませんが、発電不足と発電余剰が交互に生じるようにすれば、変動対策に必要な電力貯蔵量を低減できます。


一方日本の場合、風況の良い陸上風力の立地は少なく、水深50mまでと言われる着床式洋上風力の立地も限られます。止むを得ず、浮体式洋上風力の開発が進められていますが、経済的に成り立たないと筆者は考えています。

太陽光発電を設置できる場所も潤沢にあるわけではありませんが、無理をして太陽光発電の導入量を増やすことになります。そのため日本では、風力や太陽光発電の季節変動を相殺できるように、発電比率を適切に選ぶことはできないでしょう。


低緯度地域にある多くの発展途上国は、太陽光発電には適していても、世界の風況マップを見れば、概して風況が良くないことが分かります。日本と同様の問題が発展途上国にも起きると考えます。

電力貯蔵技術
発電変動対策の技術を以下に手短に紹介します。電力貯蔵は、電力余剰時に充電し、電力不足時に放電することで、発電変動対策の役割を果たします。

リチウムイオン電池などの定置型バッテリー、EV車などに車載される移動型バッテリー、揚水発電が主な技術です。EV車のバッテリー充填も、電力余剰時に行うことが推奨されるでしょう。


バッテリーや揚水発電は応答速度が高く、急速な発電変動に対応でき、電力貯蔵損失が比較的小さい技術です。

しかし、バッテリーは貯蔵電力当りの設備コストが高く、揚水発電は一般に立地が限られるため、貯蔵容量の拡大には制約があります。通常、1日程度の短期の発電変動に適用されます。


余剰電力の燃料変換
余剰電力のエネルギー変換として、水の電気分解による水素製造、更に水素を原料にガス燃料としてメタンや液体燃料の合成が想定されています。メタンはボイラ燃料、液体燃料は内燃機関など従来技術を使い続けることに役立ちます。

水素は燃料利用の他に、化学的エネルギー貯蔵として利用すれば、貯槽のみを大きくすることでエネルギー貯蔵量を大幅に拡大できる利点があり、発電量の季節変動対策としても想定されています。

但し、余剰電力で水電気分解、水素製造し、貯蔵後に火力発電で再度電力化する電力貯蔵効率は、30%台と非常に低いのが欠点です。

同レポートには、住民の反対で陸上風力発電の大幅導入が受け入れられない「不受容」シナリオでは、代わりに太陽光発電の比率が高まり、その高いピーク電力による余剰電力に対応するため、電力貯蔵と電解槽の容量が大きくなることが指摘されています。

その他の変動対策
電力不足時の主な対策に想定されているのは、バッテリーとともに、ヒートポンプと熱電併給を複合した地域暖房システムです。電力余剰時にはヒートポンプで熱供給し、電力不足時には熱電併給プラントを運転するものです。

また、メタン火力もあり、燃料にはGHG排出を避けるため、電気分解水素や合成メタンが使用されます。その他、電力負荷シフトのための蓄熱も想定されています。

発電変動対策として各技術の寄与度は、電力余剰時の電力利用量と、電力不足時の電力供給量で評価されており、寄与の程度はシナリオにより異なりますが、電気分解、定置式バッテリー、電気発熱体、および複合ヒートポンプ・熱電併給地域暖房が最も重要な技術と記載されています。

考慮されていない変動対策
1990年代から温暖化対策としてCO2回収貯留(CCS)は検討されていましたが、2010年頃からCCSへの関心が急速に高まりました。2015年のパリ協定に向け、CCS無しにはGHGネットゼロは難しいという認識があったものと思います。

しかし、ドイツの上記シナリオには、CCSは考慮されていません。その理由は、CCSが石炭火力の延命に繋がるというドイツの環境保護団体の反対と、長期的に貯留したCO2が漏洩したらどうするという懸念がCCS反対に繋がっているようです。

一方、日本でCCSに期待が寄せられている理由は、風況の良い立地が乏しく、太陽光発電を設置できる土地は少なく、せめて原発に頼ることを考えると反対が強く、CCSくらいしか残されていないためと思います。しかし、日本のCCS立地のポテンシャルも乏しいと国際的に評価されています。

現状の原発は定出力運転で、ディスパッチ可能電源ではありません。しかし、原発の出力分だけ、VREが少なくて済み、その分の変動対策も不要になるため、原発は重要な発電変動対策であると筆者は考えます。

しかし、メルケル政権は、福島第一原発の事故を契機に脱原発を決めました。但し、ドイツでは、日本ほど原発に対する忌避意識は高くないようで、発電変動対策の費用負担が想定外に大きければ、原発を再利用することがあるかもしれないと個人的には考えています。

VREの導入量を拡大するだけでも大変ですが、VREの発電変動対策の実施は、それに劣らず高いコストが掛かることです。

温室効果ガス排出の2/3は途上国③、排出削減策につづく